周りがその人の短所を認識すればその人は短所で失敗しない

昔の職場の上司に交渉が非常にうまい部長がいた。社外交渉を一手に引き受けていた。しかしコンピュータの扱いが下手で実際の仕事はあまりできなかった。しかし彼はその短所を長所に生かしていた。

彼は人間が大きかったのだが、実務能力が不得手だった。しかし彼は自分の実務能力の無さをプラスに生かした。自分の短所を隠さないことで、チーム全体に「部長を助けなければ」という空気ができていた。彼の実務能力の無さがチームをまとめる力になっていた。

松下幸之助に次の言葉がある。

上に立つ人は、自分の欠点をみずから知るとともに、それを部下の人たちに知ってもらい、それをカバーしてもらうようにすることが大事だと思う。部下の人が全知全能でないごとく、上に立つ人とても完全無欠ではない。部下の人よりは欠点は少ないかもしれないが、それでも何らかの欠点を持たない人はいないだろう。
その欠点多き上司が自分の知恵、自分の力だけで仕事を進めていこうとすれば、これは必ずと言っていいほど失敗するだろう。
やはり自分の欠点を部下の人に知ってもらい補ってもらってこそ、はじめて上司としての職責が全うできるのである。

その部長は今思えば、自分の短所をチームのメンバーが自然に知るようにあまり短所を隠さないようにし、自分の短所によってチームが団結するようにしていた。これも短所を長所に変える一つの方法。

人はみな欠点がある。偉大な思想家であっても欠点はある。たとえば老子は偉大な思想家ではあるが、消極的に過ぎて中庸が執れていないという欠点がある。だから老子はある意味危険である。伊藤仁斎『童子問』から引用する。

書下し文
老荘の害、士庶人の輩これを好むときは、則ち必ず礼法をにくみ、拘儉を厭ふ。故に業を落し家を破るに至って止む。これ害の小さきなる者なり。もしそれ大人これを好むときは、則ちその害、国家、天下に及び、人心日に傷れ、風俗日に壊れ、乱亡ついで至る。畏れざるべけんや。

現代語訳
老子と荘子の害。普通の人が老子や荘子を好むときは、礼儀や法律をきらい、拘束されるのを嫌がる。そして自分の仕事を失敗させ家が滅びて終わる。これは害が小さいものである。しかしすぐれた人が老子や荘子を好むときは、その害は国家や天下に及び、人々の心は悪くなり、風俗は壊れ、天下は乱れ崩壊する。恐れないわけにはいかない。

老子は後世に悪い影響を与えたといわれる。実際4世紀、5世紀ころ中国は政治的に混乱した。当時の歴史を読むと暗い気持ちになる。それは老子が知識人の間で流行したからだと言われる。

老子の思想は偉大である。偉大だからこそ国を導くべきすぐれた人たちまで老子に影響され消極的になった。他の時代であれば太公望や張良、荀彧のようになれたはずの人々が「清談」にふけり、世の中を良くしようとしなかったため、中国は混乱したと言われている。

老子の思想が偏っていても、もし老子が偉大ではなかったならば、少数の平凡な人々が老子に従っただけだろうから、その害は小さかったはずである。逆に、もしその思想が偏っていなかったら、老子は偉大であるため、彼は人々の良き手本となり世界はより良くなったはずだと私は考える。

老子の思想が危険なのは、その思想に偉大さとかたよりが共存しているからである。

我々は老子の欠点から目をそらしてはならない。松下幸之助が言う通り、上司の欠点を部下が知っていれば上司の欠点でチームが失敗することはない。同様に老子の欠点を我々読者が知っていれば、老子からその偉大な思想を学びつつも老子の欠点による悪影響を防ぐことができる。

『大学』第四章に次の言葉がある。

書下し文
好みてもその悪を知り
憎みてもその美を知る者は天下に少なし

現代語訳
好きな人物の短所を知り
嫌いな人物の長所を知る者は天下においても少ない

ゲーテに次の言葉がある。『格言と反省』から引用する。

努力する人間の困難な問題は、先輩の功を認め、
しかも彼らの短所に妨げられない点である。

老子は中庸が執れていない。「積極性:消極性」のバランスは「1:9」くらいである。OR型である。では老子は中庸をとるべきだったのだろうか。

もちろん違う。バランスをとっていたら老子の個性は間違いなく死んでいただろう。老子を読む人はみな共感すると思うが、バランスを執った老子は見たくない。老子は中庸が取れていない。「積極性:消極性」のバランスは「1:9」。しかしその「1:9」のバランスこそがもしかしたら老子にとっての中庸だったのかもしれない。しかし少なくとも客観的にみるとやはり中庸が執れていないと結論すべきだ。

老子のようにOR型をとる場合大事なのが自分の欠点を理解することである。そうすれば欠点で失敗しない。しかし老子は存命ではない。だから読者である我々が老子の欠点を理解しておく必要がある。そうであれば老子からその偉大な思想を学びながらも、その欠点により世の中が乱れることはない。周りの人たちがその人の欠点を理解すればその欠点で失敗は生じないのである。

■作成日:2023年9月11日

続きは日本に足りないのは体系的思想。それが体系的戦略がない原因。をご覧ください。

■このページを良いと思った方、
↓のいいねを押してください。



■関連記事