「速くてせっかち」と「遅くて着実」の調和

スピード感があることは長所だ。しかしその反面せっかちで表面的な分かりやすい解決方法の飛びつく。着実なことは長所だ。しかしその反面遅いという短所を持つ。

悪い意味での遅さというものがある。

日本企業に関するジョークに次のものがある。

アメリカの企業と日本の企業が商談をした。アメリカ企業の代表の男性が脚を組み替えた時に脚が隣の日本人の女性にあたった。男性は「失礼しました」と言った。その日本人女性は何も言わず隣の課長に耳打ちした。課長はさらに隣の部長に耳打ちした。部長は電話で本社の社長に電話をした。しばらくすると本社から電話が来て部長が本社と話した。部長は課長に耳打ちし、課長は女性に耳打ちした。女性はアメリカ人男性に言った。「どういたしまして」。

日本企業の意思決定の遅さに関するジョーク。これは当然、悪い意味での遅さ。

ジャック・マーに次の言葉がある。

日本に行く前は、日本の企業やビジネスマンに対してよい印象を持っていた。日本人は規則や礼儀を重んじるだけでなく、物事に勤勉に取り組むし、献身的な態度で、完璧を求めて頑張る人たちだと思っていた。しかし、実際日本に行ってみて驚いた。大企業は決断が遅く、とるに足らない細かいことのためにチャンスを失っている。私は完璧を求める人たちを尊敬するが、時と場合によっては、スピードがなくては成功できない。断固たる行動を取れないことは、企業にとっては致命的だ。

日本企業の悪い意味での遅さが指摘されている。私は日本の大企業に本格的に勤めた経験は無いが、企業では手続きが重要なのはもちろん日常的に知っているし、それで動きが多少とも遅くなるのは分かる。

「悪い意味での遅さ」は「良い意味での速さ」の逆。「良い意味での速さ」はチャンスを逃さずスピードを重視すること。

逆に「いい意味での遅さ」というものもある。松下幸之助に次の言葉がある。

カメの歩みというのは、一見のろいようだが、私は結局はこのあせらず、騒がず、自分のペースで着実に歩むというのが、一番良いのではないかと思う。手堅く歩むから力が培養されていく。逆にパッとやればどうしても手堅さに欠けるから、欠陥も出てくる。だから見たところでは非常に伸びたようだが、あとであと戻りをしなければならないということも起こってくる。ウサギのカケ足では息が切れる。といってハヤ足でもまだ早い。一番いいのはやはりナミ足で、カメの如く一歩一歩着実に歩むことではないかと思う。人生行路だけではない。事業経営の上でも、大きくは国家経営の上においても同様であろう。

「悪い意味での遅さ」は「良い意味での速さ」の逆だったように、「良い意味での遅さ」は「悪い意味での速さ」の逆。「悪い意味での速さ」は、すぐ答えを出すことを急ぐあまり、目につきやすい分かりやすい表面的な対症療法的な解決策に飛びつくことである。「良い意味での遅さ」はその逆であり、じっくりと根本的な解決を目指すことである。

ジェフ・ベゾスの言葉に次の言葉がある。

わが社のマスコットはカメである。スローな動きはスムーズであり、そしてスムーズな動きは速さにつながると信じているからだ。

カメのスムーズさとは物事を真理に基づき解決することである。たとえば水は動きはスムーズである。コップや容器の形に合わせてスムーズに形を変える。同様に本当の意味で正しい解決策は、問題や課題の形に合わせてスムーズに正しい形をとる。問題の形に合うので、問題の形にピタリと適合した解決策になる。そっちの方が松下幸之助の言うように、後から後戻りをしなくて済むのであって、逆に速くなる。スムーズな動きは速さにつながるとベゾスが言う通りである。

ゲーテに次の言葉がある。

すぐれた人で、即席やおざなりに何もできない人がいる。そういう人は性質として、その時々の事柄に静かに深く没頭することを必要とする。そういう才能の人からは、目前必要なものが滅多に得られないので、我々はじれったくなる。しかしもっとも高いものはこうした方法でのみ作られるのである。

「良い意味で遅い人」が根本的で本質的な解決策を出す。アインシュタインは天才であるが、「のろま」と呼ばれていた。学習のスピードが遅かった。じっくりと根本的なところまで知識を理解したからだろう。だからこそ根本的な発見ができた。

「良い意味での速さ」と「良い意味での遅さ」を両立させるのがハーモニー型中庸である。「悪い意味での速さ」と「悪い意味での遅さ」をとらない。



もっともこれは誰にでもできることではない。私も良い意味でも悪い意味でも遅い人間だ。ハーモニー型中庸は難しい。無理してハーモニー型中庸を執ろうとすると自分の良さもなくす可能性がある。そういう時は無理しないのが一番良い。しかし企業というものはこの「速さと遅さのハーモニー型中庸」を目指すべきなのだろうと思う。

■作成日:2023年8月24日

続きはかたよっているからこそ個性だ!!あえて中庸をとらない生き方。をご覧ください。

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