対立するふたつのものが調和すると大きな力が生まれる

中庸の大切さについて言及してきた。しかしすでに述べた通りバランス型の中庸に対しては違和感を覚えると言う人もいる。

たとえば仕事を長時間する人は仕事熱心かもしれないが、場合によっては社畜になる。プライベートの時間が多い人はニートかもしれない。仕事とプライベートのバランスが中庸を得ている人がよい。「ワークライフバランス」である。これを「バランス型中庸」とこの記事では呼ぶ。



ワークライフバランスに関しすでに引用したジェフ・ベゾスの言葉を再度載せる。

「ワークライフバランス」という言葉はあまり好きではない。少し違和感を覚えるのだ。「ワークライフハーモニー」のほうがいい。職場で元気になれて、仕事が楽しく、自分がチームの一員として役に立っていると感じられたら、家でもいい人間になれるはずだ。夫としても父親としても、もっとよくなれる。家が楽しければ、社員としても上司としても、よくなれる。
ワークとライフはバランスをとるものではなく、ぐるぐると環のように巡るもの、つまり循環だ。ワークライフバランスという言葉は、ワークとライフがそもそも両立しにくいような印象を与えるので、とても危険だ。

ベゾスは「ワークとライフハーモニー」という捉え方が「ワークライフバランス」より優れているという。仕事が充実すれば家庭でもよい父親になれる。家が楽しければ仕事でよい上司になれる。仕事と家庭は一見対立する概念のようでありながら、互いに補い合い、互いに支えあい、互いに循環し、互いに調和する。ベゾスは明らかに太極図をイメージしている。



太極図のように一見対立するふたつの要素、陰と陽が支え合い循環しあい調和するのを、この記事では「ハーモニー型中庸」と呼ぶ。

儒教の「中庸」は「バランス型中庸」と「ハーモニー型中庸」を区別せず、両方合わせて、単に「中庸」という。そっちの方がよい言葉の使い方かもしれないが、この記事ではジェフ・ベゾスにならって、「バランス型中庸」と「ハーモニー型中庸」をあえて区別する。これはこれで非常に分かりやすくなる。

「ハーモニー型中庸」はいろんな場面で現れる。すでに述べた太っ腹と倹約も同じ。太っ腹な人はその短所として浪費家であることが多い。逆に倹約家はその反面ケチであることが多い。「バランス型中庸」を得ると適度に使うので自分にとっても社会にとっても良い。



しかし「ハーモニー型中庸」は違う。「ハーモニー型中庸」は無駄なことには一切金を使わない。徹底的に倹約。しかし大切なことにはドンと金を使う。太っ腹。倹約と太っ腹という一見相矛盾する性質が調和して存在している。両者の長所が併存し、両者の短所が成り立たない。多くの人は「倹約・ケチ」型か「太っ腹・浪費家」型。もしくは「バランス型中庸」。しかし「ハーモニー型中庸」の人もいる。



「ハーモニー型中庸」は徹底的に倹約するから金がたまって重要なことに大胆に金が使える。大胆に金を使う目的があるから、徹底的に倹約になれる。太っ腹と倹約は一見対立するようでありながら、互いに補い合い、互いに支え合い、互いに調和し、互いに循環している。

北条早雲も非常に倹約だったという。釘一本無駄にしなかった。しかし領国内を平和に豊かにするためには惜しみなく金を使ったという。

これは「ハーモニー型中庸」と呼んでいいか分からないが分かりやすい例なので挙げておく。野球でピッチャーがボールを投げる。速球を投げるときもあれば、スローボールを投げる時もある。「緩急をつける」というやつだ。速球があるからスローボールが生きてきて、スローボールがあるから速球が生きる。速い球に目が慣れた時に遅い球がくるとタイミングがずれる。遅い球を見た後に速球を投げられると、非常に速い球のように錯覚し、手が出ない。



速球とスローボールという一見対立するものが支え合い、補い合い、調和し、循環している。

自信と謙虚も同じ関係。自信がある人はその反面傲慢になりがち。逆に謙虚な人は卑屈になりがち。バランスをとるのが良い。バランス型中庸。しかしハーモニー型中庸をとる人もいる。自信かつ謙虚。本当の意味で自信があるから、謙虚になって他人のもつ真理に耳を傾ける。謙虚になって他人から学ぶから、成長し続け本当の意味で自信がつく。自信と謙虚の好循環が生じる。



「自信」と「謙虚」という一見対立する者同士が、互いに補い合い、互いに支え合い、互いに調和し、互いに循環している。それによって大きな力が生まれる。「自信かつ傲慢」な人より、本当の意味で謙虚な人の方が本当の意味で成長し、最終的に本当の意味での自信が持てる。「謙虚かつ卑屈」な人より、本当に自信のある人の方が、自分の信念を保った状態で他人のもつ真理に耳を傾けるので、本当の意味で謙虚になれる。

ほとんどの人は「自信・傲慢」型か「謙虚・卑屈」型。もしくはバランス型中庸も多い。ハーモニー型中庸は実は難易度が高い。誰にでもできるわけではない。だからハーモニー型中庸を実現している人はけっこう少ない。

■作成日:2023年8月16日

続きは理念と利益という対立するふたつのものの調和をご覧ください。

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