陰と陽の対立

ここまではひとつの物、ひとりの人、ひとつの性質、ひとつの出来事における陰と陽、二面性について論じてきた。たとえば大胆さの裏にはがさつさがあり、繊細さのうらには神経質がある。倹約の裏にはケチがあり、太っ腹の裏には浪費がある。

しかし今回からはひとつの性質の裏表、陰陽ではなく、ふたつのものが対立する場合を考える。大胆でがさつな人と繊細で神経質な人は、多くの場合、あまり仲良くならない。中学校あたりから別のグループを作ってあまり交流せずに暮らしている。性格は非常に対照的。ある意味対立している。

陰キャと陽キャの例が分かりやすい。いわゆるオタクたちは陰キャである。そしてイケメンたちは陽キャが多い。だいたいこの両者は別のグループをつくっている。イケメンたちはオタクたちを馬鹿にし、オタクたちはイケメンたちに反発しながら自分たちの文化を創る。ある意味対立構造である。

大胆さとがさつさを再度確認する。これはひとつの性質における裏と表だ。陰と陽。大胆さという陽の裏にがさつさという陰が貼りついている。陽の裏に陰があり、陰の裏に陽がある。



繊細さと神経質も同じ。ひとつの性質における裏と表だ。陰と陽。繊細さという陽の裏に神経質という陰が貼りついている。陽の裏に陰があり、陰の裏に陽がある。



そして大胆さと繊細さは対立している。大胆さが陽であり繊細さが陰である。ここで気を付けたいのは、大胆さと繊細さの陰陽の対立はひとつの性質の裏と表、陰と陽ではない。そうではなくてふたつの性質の間の対立構造である。対なのだ。



太っ腹と倹約も同じ。太っ腹と浪費家はひとつの性質の裏と表であり陰と陽である。倹約とケチもひとつの性質の裏と表であり、陰と陽。しかし「太っ腹・浪費家」と「倹約・ケチ」の対立はひとつの性質に備わる陰と陽ではない。ふたつの性質の対立であり陰と陽である。



陰キャと陽キャの対立も同じ。これもふたつの性格の対立、陰と陽であって、ひとつの性質に内在する陰と陽ではない。



『兵法三十六計』に次の言葉がある。

書下し文
備え周ねければ、則ち意怠り、
常に見れば、則ち疑わず。
陰は陽のうちにあり、
陽の対にあらず。

現代語訳
準備が万端だと、自然と油断が生じ、
いつも見ていると、疑いが消える。
陰は陽のうちにある。
陰は陽の対ではない。

「準備が万端」という陽の裏に「油断が生じる」という陰がある。これはひとつの出来事、ひとつの性質の裏と表である。「陰は陽のうちにあり、陰は陽の対ではない」と言っている。たしかにこの場合はその通りである。



「いつも見ていると疑いが消える」とある。「いつも見ている」という陽のうちに、「疑いが消える」という陰がある。



具体例を挙げると、『三国志』に次の記述がある。太史慈という勇敢な武将がいた。孔融という群雄のひとりがいて、太史慈を優れた武将と考えて、太史慈に日頃から恩を施していた。あるとき孔融が黄巾の賊に城を包囲された。太史慈は孔融のもとに駆け付けた。そして他の群雄に援軍をお願いする使者になるのを買って出る。しかし城は黄巾の賊の大軍に完全に包囲され城を脱出できない。そこで太史慈は少数の兵士たちを率いて城の前に出た。黄巾は「軍隊が城の外に出たぞ、攻撃してくるのか脱出するつもりなのか」と身構え臨戦態勢になる。しかし太史慈は城の前で矢を射る訓練を始めた。「なんだ、ただの訓練か」と思い黄巾賊は臨戦態勢を解く。次の日も太史慈は城を出る。黄巾賊は若干警戒する。しかしやはり太史慈は訓練をする。そしてこれが何日も続く。すると黄巾賊はそのうち「どうせ訓練だ」といって完全に疑いを解いてしまう。そして最後にに太史慈は完全に油断している黄巾の軍をやすやすと突破して、援軍要請のために他の群雄のもとに到着した。

これは「いつも見ていると疑いが消える」の典型例。「いつも見ている」という陽のうらに「疑いが消える」という陰がある。「陰は陽のうちにあり、陰は陽の対ではない」と言っているがこの場合は確かにその通り。

しかしだからと言って「対となる陰陽」が存在しないわけでは決してない。太っ腹と倹約という陰と陽の対立は、「対となる陰陽」である。



「ひとつの性質に内在する陰陽」と「対立するふたつの性質における陰陽」は恐らく区別されないといけないと思っている。まだ十分に考察していないので断言できないが、おそらく区別が必要。上図の下の「太っ腹と浪費家」は「ひとつの性質に内在する陰陽」で、上に在る「⇔」の陰と陽の対立は「対立するふたつの性質における陰陽」。

前回まで「ひとつの性質に内在する陰陽」について大量の具体例を挙げて論じてきた。そして次回からは「対立するふたつの性質における陰陽」を詳しく解説していく。

■作成日:2023年7月31日

続きは陰と陽の対立の具体例をご覧ください。

■このページを良いと思った方、
↓のいいねを押してください。



■関連記事