優れた人はすべてをプラスにする。劣った人はマイナスにする。後編

能力があるのは長所である。間違いない。すぐれた人は自分の能力を発揮する。そして世の中を良くする。逆に能力がないのは短所である。しかしすぐれた人は自分の能力の無さもプラスに生かす。そして世の中を良くする。

漢の創始者劉邦は人間的魅力にあふれた人だった。彼は「季さん」と呼ばれていた。若いころ身分は低く、酒場で酒を飲んでいると「季さんが酒場にいるぞ」と言って多くの人たちが、酒場に来るので酒場は大繁盛。酒場のおかみさんは、劉邦の酒代をタダにしたという。

しかし彼は能力がなかった。頭は悪いし、いくさは弱い。彼についていく人たちは劉邦にいろんなことを教えてあげるのを楽しんだ。「季さんはおれがいないと何にもできないんだぜ」と能力ある人たちはうれしそうに言っていたという。

劉邦の周りにはすぐれた人たちが集まった。特に張良、韓信、簫何という三人はそれぞれ参謀、指揮官、内政官として非常にすぐれた人たちだった。劉邦は人間は巨大だったが、無能だった。そして自分の無能さをよく知っていた。自分の無能さを認める点では非常に素直だった。だからすぐれた部下たちのいうことをよく聴き、用いることができた。彼は無能であることの短所を長所としてプラスに生かした。

司馬遼太郎はその『項羽と劉邦』という小説の中で劉邦を「大いなる虚」と表現している。劉邦は戦が強いわけでも頭がいいわけでもなく能力のない人であった。しかしその人物は巨大で不思議な魅力を持つ人物だった。巨大な空の器のようなものであり、虚であるからこそ、そこに張良、簫何、韓信、陳平たちの知恵が大量に入り込むことができてそれで大いなる事業を成し遂げたと言っている。

公田連太郎『易経講話』の風水渙に次の言葉がある。

易の六十四卦はすべて、悪い方面から見れば悪くなり、善い方面から見れば善くなるのである。

劉邦のように能力がないのは普通悪い方面から見られる。マイナスであり短所として認識される。しかしそれをプラスの方向から見ることもできる。

『易経講話』からさらに引用する。

悪い卦と考えられている卦も、その悪いところにこれをうまく処置する道が現れてているのである。

劉邦の能力の無さもその能力がないという悪いところに、それをプラスにする道が現れているのである。

『荀子』不苟篇の言葉を引用する。

書下し文
君子は能あるもまた良く、不能なるもまた良し。
君子は能あれば則ち寛容易直にして人を開き導き、
不能であれば則ち恭敬遜屈にして人に謹み仕う。

現代語訳
すぐれた人は能力があっても立派で、能力がなくても立派である。
すぐれた人は能力があれば寛容にして穏やかに人を啓発し指導する。
能力がなければ恭敬でへりくだり謹んで人の意見を聞く。

すぐれた人は能力があればその能力を正しく生かし、能力がなければすぐれた人の意見を聴く。どちらの場合もプラスにする。

荀子の言葉は次のように続く。

書下し文
君子は能あれば則ち人もこれに学ぶを喜び、
不能なれば則ち人もこれに告くるを楽しむ。

現代語訳
すぐれた人は能力があれば周りの人たちも彼から学ぶのを喜び、
能力がなければ彼に教えるのを楽しむ。

すぐれた人に能力があれば周りの人もその人から進んで学ぼうとする。すぐれた人に能力がなければ、周りの人はそのひとに教えるのを楽しむ。劉邦を助けるのを人々が楽しんだのがこれにあたる。

劣った人の場合これと逆になる。『荀子』不苟篇の言葉を引用する。

書下し文
小人は能あるもまた悪く不能なるもまた悪し。
小人は能あれば則ち倨傲僻違にして人に驕り高ぶり不能なれば妬嫉怨誹にして人を傾覆す。

現代語訳
劣った人は能力があっても悪く、能力がなくてもやはり悪い。
劣った人は能力があれば傲慢になり驕り高ぶり、能力がなければ妬み怨んで人を陥れる。

劣った人は能力があればおごり高ぶる。世の中に害をもたらす。能力がなければ他人をねたんで足を引っ張る。荀子の言葉は次のように続く。

書下し文
小人は能あるも則ち人はこれに学ぶを賤しみ、
不能なるも則ち人はこれに告ぐるを恥ず。

現代語訳
劣った人は能力があっても周りの人たちは彼から学ぶのを嫌がり
能力がなくても彼に教えるのを避ける。

すぐれた人は自分の長所を生かし、短所をプラスに生かす。

『荀子』不苟篇に次の言葉がある。

書下し文
君子は大心ならば則ち天を敬いて道あり。小心ならば則ち義を畏れて節あり。

現代語訳
君子は心の大きい者であれば天を尊敬して正道を踏み行い、心の小さい者であれば道義を畏れて節度がある。

心が大きければそれを長所として生かし、心が小さくてノミの心臓であればそれをプラスに生かす。劣った人はその逆。

書下し文
小人は大心ならば則ち慢にして暴る。小心ならば則ち淫にして傾なり。

現代語訳
小人は心の大きい者であれば放漫で粗暴になり、心の小さい者であれば淫乱で邪悪になる。

劣った人は心が大きくてもダメ。心が小さくてもダメである。さらに引用する。

書下し文
君子は知なれば則ち明通して類。愚なれば端愨にして法あり。

現代語訳
君子は賢ければ多くのことを見通して細かいところまで正しさに適い、愚かであれば正しく真面目であって定められた法に従う。

すぐれた人は知恵があればそれで世の中を良くする。知恵がなければ知恵がある人に従う。どちらにしてもプラスになる。劣った人はその逆。

書下し文
小人は知なれば獲盗にして漸。愚なれば毒賊にして乱なり。

現代語訳
小人は賢ければ私利私欲をみたし詐欺を行う。愚かであれば人を害して世の中を乱す。

劣った人は賢くてもそうでなくてもマイナスになる。

すぐれた人は感情も正しいという。喜んだ時も悲しんだ時も正しい。

書下し文
君子は喜べば則ち和にして理あり。憂えれば則ち静にして理あり。

現代語訳
君子は喜ぶときは穏やかにおさまり、憂えれば静かにおさまる。

劣った人はその反対。

書下し文
小人は喜べば則ち軽。憂えれば則ち挫す。

現代語訳
小人は喜べば軽薄で浮つく。憂えれば意気消沈しておびえる。

人は重用されたり左遷されたりする。すぐれた人はどっちの場合も正しく対応する。

書下し文
君子は用いられれば則ち恭にして止。閉せられれば則ち敬にして斉あり。

現代語訳
君子は人に用いられると慎み深く道義に止まる。人から疎んじられると慎んで正しくする。

劣った人はどちらの場合も悪い結果になる。

書下し文
小人は用いられれば則ち鋭にして倨。閉せられれば則ち怨みて険。

現代語訳
小人は人に用いられると人をしのいで傲る。人に疎んじられると怨んで悪だくみする。

重用されるとおごり高ぶり、左遷されると逆恨みする。

さらに引用する。

書下し文
君子は両進し小人は両廃す。

現代語訳
すぐれた人はプラスの場合マイナスの場合、どちらの場合でも進歩し、
劣った人はどちらの場合でも悪くなっていく。

すぐれた人は自分の長所を長所として認識して生かす。短所も認識してプラスに生かす。他人の長所も認識して生かし、他人の短所も認識してそれによる失敗がないようにする。順境は順境としてプラスに生かし、逆境は試練としてプラスにする。世の中の良いことは良いこととして生かし、悪いこともよく認識してプラスにかえたりもしくはそれができない場合は克服したりする。プラスの場合もマイナスの場合もどちらの場合でも、正しく生かしていく。

劣った人はその逆。長所もマイナスにしてしまう。順境すらマイナスにする。

この差が積み重なると大きな違いになる。

■作成日:2023年9月11日

続きは周りがあなたの短所を認識すればあなたは短所で失敗しない<をご覧ください。

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