末節の重要性

佐平:根本の重要性を述べてきたな。
福太郎:ええ。
佐平:ひとつ目は「根本が備われば自然と末節が充実する」という点だ。
福太郎:そうでした。
佐平:ふたつ目は「根本が忘れられ末節のみに走るようになると害が生じる」という点だ。
福太郎:ええ。
佐平:じゃあ末節は必要ないと思うか。
福太郎:具体例がないとよく分かりませんが、ケースバイケースじゃないですか?
佐平:今までの解説と矛盾するようだが、末節を軽視してはいけない場合は非常に多い。
福太郎:例えば?
佐平:例えば劉備の人生だ。まずノートを見返すぞ。『大学』の引用だ。
現代語訳
君子はまず徳を充実させる。徳があれば自然に有能な人々が帰服し、有能な人々が帰服すれば領地が得られる。領地が得られれば財物が豊かになり、財物が豊かになれば大業が起こる。徳が根本であり、財物は末節である。

書下し文
君子は先ず徳を慎む。徳あれば此に人あり、人あれば此に土あり、土あれば此に財あり、財あれば此に用あり。徳は本なり、財は末なり。
福太郎:ええ。覚えてます。
佐平:「人徳」→「人材」→「土地」→「財産」→「大業」の根本と末節の連鎖があるな。
福太郎:はい。
佐平:人徳があると自然とそれを慕って有能な人材が集まり、有能な人材が集まると自然と領土が増え、領土が増えると税収が上がり財産が増え、財産が増えると民の生活を安定させられる。大業が完成する。これは曹操の人生に当てはまる。
福太郎:そうでした。
佐平:曹操のライバル劉備の場合を解説するぞ。
福太郎:はい。
佐平:劉備は根本たる人徳を備えていた。彼は曹操も認めるほど人間的な魅力にあふれた人だった。
福太郎:根本を備えると自然と末節が充実するから、次の人材も集まってきますね。
佐平:普通はそうだ。でも劉備の場合は集まらなかった。
福太郎:なぜですか?
佐平:劉備は関羽や張飛といった豪傑たちを信頼した。勇敢な人たちを信じたんだ。でも知者たち頭のいい人たちを信用しなかった。頭のいい人は口先だけの人と考えたんだ。知者たちを冷遇した。
福太郎:なるほど。
佐平:だから豪傑たちは集まってきたが知者が集まらない。だから「人徳」から「人材」の段階に進まなかった。だから当然「土地」も手に入らない。劉備は何十年もくすぶり続ける。
福太郎:そうなんですね。
佐平:劉備が大業を成して蜀という国を建てたのは孔明という知者を優遇するようになってからだ。
福太郎:やっと「人材」の段階に進んだんですね。
佐平:そうだ。
福太郎:でも変ですね。「人徳」という根本を備えたら勝手に「人材」も充実するんじゃないですか。
佐平:そうとは限らない。確かに根本を備えたら末節が充実するための「自然な力」が働く。そしてその「自然な力」は天の意思と言ってもいい。
福太郎:はい。
佐平:でも天は根本を備えた人を「自然な力」で「ぼんやり」としか助けてくれないんだ。
福太郎:というと?
佐平:根本を備えた人は天が助けてくれても大業を成すために必死に努力をする必要がある。天が助けてくれるからといって努力をしないと大業を成さずに人生を終えてしまうんだ。
福太郎:なるほど。
佐平:「人徳」という根本を備えた曹操も、人徳を持たない董卓、呂布、袁術と必死の死闘をしなくてはならなかった。
福太郎:「助けてやるけど努力しろ」が天の意思なんですね。
佐平:そうだ。劉備は人徳を備えていたが知者を獲得する努力をしなかった。それで彼の前半生は失敗の連続だった。
福太郎:はい。
佐平:確かに大業を成さなくても偉大な人徳という根本を備えた劉備は偉大だ。でも大業を成すという末節も重要だ。大業を成さないと劉備の人徳で民の生活を安んじることができない。
福太郎:確かに。
佐平:末節を軽視してはいけない場合の典型だ。
福太郎:分かりました。
佐平:ビジネスの例を挙げる。ノートを見返すぞ。



福太郎:ええ。覚えてます。
佐平:「優れた技術がある」→「良い商品ができる」→「営業がうまくいく」→「売上が上がる」→「利益が生じる」という根本と末節の連鎖があるな。
福太郎:ええ。
佐平:優れた技術やアイデアを持っているのは素晴らしい。でも最終的に末節の売上につながらないと世の中にその会社のもつ価値を届けることができないんだ。ビジネスとして成立しない。
福太郎:アイデア倒れですね。
佐平:そうだ。
福太郎:確かに末節も重要だと分かります。
佐平:そうだな。
福太郎:他に例はないですか?
佐平:『論語』泰伯篇に次の言葉があるぞ。
現代語訳
孔子が言われた。恭しくても礼儀によらなければ骨が折れる。慎み深くても礼儀によらなければ萎縮する。勇敢でも礼儀によらなければ乱暴になる。率直でも礼儀によらなければ他人に厳しくなりすぎる。

書下し文
子曰く。恭にして礼無ければ則ち労す。慎にして礼無ければ則ち畏す。勇にして礼無ければ則ち乱す。直にして礼無ければ則ち絞す。
福太郎:礼儀の重要性について言ってますね。
佐平:ああ。「恭しさ」「慎み深さ」「勇敢さ」「率直さ」はそれぞれ人間の美点だ。「仁徳」であり根本だ。しかし末節である「礼儀」によらなければスムーズにうまくいかないと言っているんだ。
福太郎:なるほど。
佐平:この文章は『論語』では珍しく末節の重要性を説いている。
福太郎:他に例はないですか?
佐平:『耳をすませば』というアニメ知ってるか?
福太郎:知ってますよ。1回見ました。
佐平:小説家志望の少女が出てくる。名を雫という。バイオリン職人の爺と雫の会話を引用するぞ。
爺は雫にエメラルドの原石を見せる。

爺「緑柱石といってね。エメラルドの原石が含まれているんだよ。」
雫「エメラルドって、宝石の?」
爺「そう。雫さんもその石みたいなものだ。まだ磨いてない、自然のままの石。私はそのままでもとても好きだがね。しかし、ヴァイオリンを作ったり、物語を書くというのは違うんだ。自分の中に原石を見つけて、時間をかけて磨くことなんだよ。手間のかかる仕事だ。」
福太郎:小説の書き方についてですか?
佐平:ああ。まず雫の個性という原石が小説づくりの根本なんだ。
福太郎:分かります。
佐平:それを磨いて作品ができる。
福太郎:「個性」が根本で「作品」が末節ですね。
佐平:ああ。その内容が十分あれば芥川賞をもらう。
福太郎:今度は「作品」が根本で、「芥川賞」が末節ですね。
佐平:その通りだ。そして有名になり発行部数が伸びて印税が手に入る。
福太郎:さらに「芥川賞」が根本で「印税」が末節ですね。
佐平:そうだ。「個性」→「作品」→「芥川賞」→「売上」という根本と末節の連鎖がある。
福太郎:なるほど。
佐平:根本たる個性が最も大事なんだが原石で終わってしまってはあまり意味がない。
福太郎:意味がないというのは言い過ぎです。良い個性があるのはそれだけでも素晴らしい。
佐平:そうだな。でも人間としては素晴らしくても小説家としては意味がない。
福太郎:そうですね。確かに。小説家としては優れた作品を創る必要があります。
佐平:さらに芥川賞を取れば有名になって多くの人にその作品を届けることができる。
福太郎:ええ。
佐平:やはり末節を軽視してはいけないんだ。
福太郎:分かります。
佐平:ここで注目すべきは爺の次の言葉だ。「自然のままの石。私はそのままでもとても好きだがね。」と言っている。
福太郎:原石は作者の個性ですね。
佐平:そうだ。多くの人は芥川賞をとって有名になってはじめてその人の小説を評価する。
福太郎:はい。
佐平:少数の人は優れた作品ができた時点でその小説家を評価する。
福太郎:そうですね。
佐平:さらに少数の人が原石の時点で評価する。
福太郎:分かります。
佐平:原石の時点で評価する人は非常に優れた目利きだ。この爺は恐らく作者宮崎駿の分身だ。宮崎駿は恐らく優れた目利きだと思う。
福太郎:なるほど。
佐平:おまえアイドルに詳しいか?
福太郎:いえ。詳しくないですよ。
佐平:オレはAKBが大人気だった頃、社会勉強のためAKBの勉強をしていた。だから少しだけ詳しいぞ。
福太郎:誇らしげに言ってますが別に偉くないですよ。
佐平:アイドルも多くの人は有名になってからそのアイドルを評価する。
福太郎:ええ。
佐平:少数の人はそのアイドルが育ってから評価する。
福太郎:はい。
佐平:さらに目利きの人は原石の時点で評価する。
福太郎:アイドルのことは知りませんが、分からんではないです。
佐平:劉備も同じだ。
福太郎:というと?
佐平:多くの人は劉備が大きな領土を得てからでないと彼を評価しない。
福太郎:でしょうね。
佐平:しかし曹操のような英雄は違う。曹操は劉備が原石だった頃から評価している。
福太郎:そうですか。
佐平:曹操はうだつの上がらない劉備に対して「天下の英雄は君と余だ。」と言った。
福太郎:英雄は英雄を知るですか。すごいですね。
佐平:原石の時点で評価した人は優れた目利きとして名を残す。
福太郎:ええ。
佐平:『荀子』天論篇に次の言葉があるぞ。
現代語訳
天にあるものでは太陽と月が最も光り輝くものであり、地上のものでは水と火が最も人間にとって有用なものであり、物のうちでは珠玉が最も珍重されるものであり、人間においては礼儀が最も大切なものである。しかし太陽と月も天高く登らなければその光輝も地上を照らすことができず、水と火もたくさんなければその輝きと潤いで人々の役に立つことができず、珠玉も地上にあらわれなければ王や貴族によって宝とされず、礼儀も国によって制定されなければ人々の間に道徳をうち立てられない。

書下し文
天に在る者は日月より明らかなるは無く、地に在る者は水火より明らかなるは無く、物に在る者は珠玉より明らかなるは無く、人に在る者は礼儀より明らかなるは無し。故に日月は高からざれば則ち光輝も盛んならず、水火は積まざれば則ち輝潤も博からず、珠玉は外に著われざれば則ち王公も以て宝と為さず、礼儀は国家に加わらざれば則ち功名も明らかならず。
佐平:太陽と月のように光り輝くものも沈んでいてはいけない。天高くのぼらなければ地上をくまなく照らすことはできないと荀子は言うんだ。
福太郎:ええ。
佐平:同じように偉大な人徳をもつ劉備も大業をなさなければその人徳で多くの民衆を救うことができない。
福太郎:分かります。
佐平:世の中に役立つアイデア・技術もビジネスとして成功しなければ多くの人に価値をもたらし社会貢献をすることはできない。
福太郎:はい。
佐平:優れた個性を持った小説家も芥川賞をとらなければ多くの人に読んでもらい自分の感動を伝えることができない。
福太郎:はい。この荀子の言葉は末節を重視しているんですか。
佐平:そうだ。よく分かったな。この荀子の言葉は儒教としては非常に珍しく末節の重要性を述べているんだ。現実主義者の荀子らしい言葉だ。
福太郎:ええ。
佐平:太陽や月は光り輝く。その輝きが根本だ。しかし天高く昇らないと地上を照らせない。天高く昇るのが末節だ。末節も大切だ。
福太郎:ええ。
佐平:珠玉は価値がある。その価値が根本だ。しかし地上にあらわれないと宝物として珍重されない。地上に表れるのが末節だ。末節も大事だ。
福太郎:なるほど。では結局末節も重要という結論でいいんですか?
佐平:とりあえずオレのスタンスを言っておこう。儒教のスタンスは後から言うから。オレのスタンスは「根本は重要だが末端も重要である。しかし根本のほうが末端より重要だ」となる。恐らくこれが正しいとオレは思っている。
福太郎:そうですか。
佐平:オレの造語を挙げとくぞ。
根本なき末節は空虚であり、末節なき根本は現実化しない。
福太郎:どういう意味ですか?
佐平:根本なき末節というのは、例えば董卓のように根本たる人徳を持たない者が、末節たる強力な軍事力を持った場合だ。これは空虚であり害なんだ。さらに長続きしない。
福太郎:ええ。
佐平:本業による社会貢献をまったく伴わないビジネスも同じだ。根本たる「社会に役立つアイデア・技術」なしに末節である売上だけ生じるビジネスだ。こんな根本なき末節は空虚で長続きもしないんだ。
福太郎:そうですね。
佐平:内容のない売れた小説も同じだ。個性や優れた作品という根本なしに売上という末節だけが充実する。これも空虚でありそんな名声や売上は長続きしない。
福太郎:分かります。
佐平:逆に根本を備えても末節のない場合だ。末節なき根本だ。
福太郎:はい。
佐平:例えばうだつの上がらない劉備だ。偉大な人徳という根本を備えていても、末節である大業を成さなければその偉大な人格は現実社会に意味を持ちえない。
福太郎:たしかに。
佐平:アイデア・技術だけあってビジネスとして成功しない企業も同じだ。末節なき根本だ。末節たる売上に至らなければ現実世界で意味を持ちえないんだ。社会貢献ができない。
福太郎:ええ。
佐平:原石で終わる小説家も同様だ。根本たる個性だけあっても優れた作品を仕上げそして売れなければ現実化しないんだ。多くの人に感動を届けることができない。
福太郎:分かります。
佐平:理想主義者ほど根本を重視し、現実主義者ほど末節を重視するんだ。
福太郎:例えば?
佐平:小説家の例で「個性」→「作品」→「芥川賞」→「売上」の本末の連鎖を挙げたな。
福太郎:はい。
佐平:理想主義者は根本を重視する。小説家の作品が出来上がっていなくてもその個性だけで評価する人もいる。個性とは「人間性」だ。
福太郎:宮崎駿は「原石だけでも好きだ」と言ってましたね。
佐平:そうだ原石は個性で「人間性」だ。
福太郎:はい。
佐平:それよりやや現実的な人は優れた作品を見て評価する。作品とは「芸術性」だ。
福太郎:分かります。
佐平:さらにより現実的な人は芥川賞をとった後に評価する。芥川賞は「名誉」だ。個性とか作品などの内容よりも名誉を重視する人はこれにあたる。
福太郎:賞を見て評価するのが手っ取り早いですよ。いちいち作品よまなくていいし。
佐平:おまえやる気ないな。
福太郎:全部の小説を読むわけにもいかないですしね。
佐平:最も現実的な人は売上や印税で評価する。売上とは「金」だ。「・・で、いくら稼いだの?」という質問をする。
福太郎:ええ。
佐平:「個性」→「作品」→「芥川賞」→「売上」とは「人間性」→「芸術性」→「名誉」→「金」と言い換えられる。
福太郎:分かります。
佐平:理想主義者ほど左を重視する。現実主義者は右を重視する。
福太郎:先輩はどういうスタンスですか?
佐平:オレは「作品」を見ることが多い。
福太郎:でも全部の小説は読めないでしょう。
佐平:そうだな。全部は読めないし、場合によっては読んでも内容理解できないときももちろんある。
福太郎:ですよね。
佐平:そういう時はおまえの言うように、「芥川賞」をとったと聞いて「へ~すごいんだ。」と思う。
福太郎:ほら。そうでしょう。
佐平:でも多くの場合は「作品」を見て評価を決める。
福太郎:「個性」は見ないんですか?
佐平:もちろん「作品」が優れていると「個性」も伝わってくる。だから「作品」を読んで著者の「個性」に感動するんだ。
福太郎:ええ。
佐平:でも「個性」が優れていても「作品」がまだ優れてないというケースはある。
福太郎:原石ですね。完成してない。
佐平:ああ。そういう場合はなかなか「個性」を評価するのは難しい。宮崎駿なみの目利きじゃないとできない。おれは最初に「作品」を見る傾向にあるな。
福太郎:分かりました。「個性」=「人間性」で「作品」=「芸術性」ですね。
佐平:「人間性」と「芸術性」について補足する。『論語』八イツ篇から引用するぞ。
現代語訳
孔子が韶の音楽を評された。「美しさは十分だし、善さも十分だ」。 武の音楽を評された。「美しさは十分だが、善さは十分ではない」。

書下し文
子、韶を謂わく、美を尽くせり。また善を尽くせり。武を謂わく、美を尽くせり。未だ善を尽くさず。
佐平:「美しさ」は芸術性だ。「善さ」は「人間性」だ。韶の音楽と言うのは上古の聖人、舜の音楽だ。舜は人間的にも優れていたのだろう。その音楽は「美しさは十分だし、善さも十分だ」と孔子は言っている。
福太郎:ええ。
佐平:それに対して武の音楽とは周の武王の音楽だ。
福太郎:周の文王という聖王の息子ですね。
佐平:ああそうだ。武王の音楽は芸術性は十分だが人間性は十分ではないと言っている。
福太郎:武王は舜より人間性は若干優れてなかったんでしょうか。
佐平:そうとも読める。いずれにしてもここでも「善さ」=「人間性」が根本で、「美しさ」=「芸術性」がそれよりは末節になる。
福太郎:はい。確かに現代でも色んな音楽を聴いていて人間性と芸術性の両方を鑑賞しますよね。
佐平:そうだな。
福太郎:ワーグナーは芸術的には偉大ですが、人間的には若干問題あります。
佐平:ああ。
福太郎:あるテレビ番組で何十年も前にブラジルに移住した日本人が出てました。現在はおばあちゃんです。祖国日本を想って日本の歌を歌ってました。歌は芸術的には優れてませんでしたが、祖国を想う気持ちがひしひし伝わってきてとても感動しました。人間性は優れてると思いました。
佐平:いい例だな。
福太郎:ええ。
佐平:もっと例を挙げるぞ。『言志四録』の『言志後録』百五十に次の言葉があるぞ。
現代語訳
武事は武芸だけにあるのではなく、学問は書物だけにあるのではない。共にその精神にある。

書下し文
武事は専ら武芸に在らず。文学は必ずしも文籍に在らず。
佐平:武とは剣の腕前だけにあるのではない。精神にあると言う。
福太郎:言っていることは分かります。武芸が末節で精神が根本ですね。
佐平:ああ。学問も書物を読むだけではない。書物は末節で精神が根本だ。
福太郎:さっきの「人間性」と「芸術性」と似ていると思います。
佐平:そうだな。さらに例を追加するぞ。ビジネスでも「社会に役立つアイデア・技術がある」→「良い商品・サービスがある」→「会社の評判が良くなり営業がうまくいく」→「売上が上がる」という根本と末節の連鎖がある。
福太郎:そうでした。
佐平:理想主義的な人ほどその会社の理念や思想にほれ込む。
福太郎:わかるな。就職活動でありそう。
佐平:それよりやや現実的な人はその会社の商品やサービスにほれ込む。
福太郎:ええ。そういう人います。
佐平:もっと現実的な人はその会社のブランド力や社会から受ける尊敬度などにひかれる。
福太郎:ネームバリューですね。
佐平:ああ。最も現実的な人は会社規模や売上を重視する。
福太郎:会社が潰れないかどうかとか給料とかですか。
佐平:そうだ。
福太郎:分かります。
佐平:先に「天→人間本性→道→仁徳→礼儀→法律→利益→武力→権謀」という根本と末節の階梯を挙げたな。このうち左に行くほど根本に近く右に行くほど末節に近い。だから理想主義者ほど左側を重視し、現実主義者ほど右側を重視する。
福太郎:そうですか。
佐平:そもそも「根本」と「末節」というのも儒教やオレ自身が理想主義に寄っているので、左側を「根本」と呼ぶんだ。現実主義者は経済力や軍事力を「根本」と考えるから右側を「根本」と言うはずだ。
福太郎:軍事力こそ根本というのはリアリストの考えですね。
佐平:ああ。リアリスト=現実主義者だ。
福太郎:経済力が意味があるのはその資金が軍事力の増強のために使えるから、とリアリストは考えます。軍事力が根本で経済力は末節です。
佐平:そうだ。経済力は「潜在的軍事力」と言われる。だがおれは若干理想主義なので、左側を根本と言うぞ。
福太郎:はい。
佐平:孔子は「天→人間本性→道→仁徳」を重視する。もちろん「礼」もそれに続いて重視する。「法、利益、武力」は必要とするけどそこまで重視しない。
福太郎:孔子は「理想:現実」の重要性の比率は何対何ですか?
佐平:たぶん「8:2」だな。孔子は理想主義者だ。
福太郎:そうですか。
佐平:孟子は「天→人間本性→道→仁徳」を孔子と同じで重視する。もちろん「礼」もそれに続いて重視するのも同じだ。「法」に関してはどうだったかな・・?「利益、武力」ははっきりと軽視している。
福太郎:「理想:現実」の比率は?
佐平:孟子は「9:1」だ。ほぼ完全な理想主義者。
福太郎:諸葛孔明は?
佐平:孔明は「仁徳→礼儀→法律→利益→武力」を重視する。特に仁徳と法かな。
福太郎:「理想:現実」の比率は?
佐平:たぶん「6:4」だな。
福太郎:荀子はどうですか?
佐平:荀子は「礼」を重視する。比率は「5:5」くらいじゃないかな。「6:4」かな。
福太郎:韓非子は?
佐平:韓非子は「法」を重視。比率は「3:7」か「2:8」で現実主義者だ。
福太郎:曹操は?
佐平:曹操は「仁徳→礼儀→法律→利益→武力→権謀」を重視だ。特に「法」を重視した。比率は「3:7」かな。現実主義者だと思う。でもオレがそう思うのは『三国志演義』の影響かな。実際は「4:6」かもしれない。
福太郎:董卓は?
佐平:「0:10」で現実主義者だ。
福太郎:なるほど。
佐平:後述する賈クは「権謀」が得意だ。
福太郎:ええ。
佐平:それではいったん休憩して続けるぞ。

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■上部に掲載の画像は山下清。

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