登場人物


本庄佐平:佐賀市本庄町出身。現在大学1年生。独学で中国思想を学んでいる。
西新福太郎:福岡市西新出身。大学を目指し受験勉強中。この度大学見学で上京し、高校の同じ部活の先輩だった佐平の家を尋ねる。

福太郎、佐平の家を尋ねる



福太郎:お久しぶりです。佐平先輩。どうしてました?
佐平:久しぶりだな福太郎。オレは元気だ。
福太郎:まじめに勉強してます?
佐平:当り前だ。オレを何だと思っている?そういうお前こそ勉強ははかどっているか?
福太郎:受験勉強面白くないんですよ。せっかくだから佐平先輩から中国思想の話でも聞こうかと思ってやってきたんですよ。
佐平:おお!感心だな。
福太郎:まあ大学見学のついでですけどね。
佐平:ついでか・・。まあいい。ついででも中国思想を学ぼうと思うやつは稀少種だからな。
福太郎:先輩が中国思想にはまっていると聞いてますが、面白いんですか?
佐平:面白いね。
福太郎:オレも『論語』とか読んでみたんですけど、当り前のことしか書いてなくて何が面白いのがチンプンカンプンなんですよ。『老子』とかはところどころ面白いんですけど。
佐平:まあそうだろうな。儒教は一見面白くないからな。オレも最初読んだときは眠たくてしょうがなかった。でもちゃんと読んでいくとその面白さに感動するようになる。
福太郎:ほんとですか?じゃあ分かりやすく話してくださいよ。オレは完全な素人ですから。
佐平:分かりやすく話すというのもけっこう難しいんだよな。ま、できるだけやってみるけど。


物事の順番



佐平:物事には順番があるよな?
福太郎:順番?何言ってんすか?
佐平:木村拓哉さんはモテるよな?
福太郎:最初から話が見えない・・。もちろんモテますね。
佐平:なぜモテる?
福太郎:そりゃかっこいいから。
佐平:その通り。お前の百倍かっこいい。
福太郎:佐平先輩だってこっち側でしょう。
佐平:木村さんはかっこいい。だからモテるんだ。
福太郎:何当たり前のこと言っているんすか?
佐平:これが物事の順番の一番単純な例だ。「木村さんはかっこいい」→「木村さんはモテる」という順番だ。



福太郎:当り前じゃないですか?何が面白いんですか。
佐平:まあ文句を言うのは続きを聴いてからにしてくれ。後から「ああそういうことか」と思うから。
福太郎:そうなんですか?
佐平:とりあえずいくつか例を挙げていくぞ。お前泣いたことはあるか?
福太郎:あります。最近はないですけど子供の頃はありました。
佐平:どんな時に泣いた?
福太郎:悲しい時ですね。
佐平:そうだな。これも物事の順番だ。「悲しい」→「泣く」という順番がある。「悲しいから泣く」のであって「泣くから悲しい」のではない。



福太郎:基本的にはそうですね。だから何なんすか?
佐平:ではもう少し段階がたくさんある例を挙げる。車でレストランにいくのを思い浮かべろ。
福太郎:はい。いいですよ。
佐平:車でレストランに行くには車にガソリンが入っている必要がある。
福太郎:そりゃ当然です。
佐平:ガソリンが入っているとエンジンが動く。
福太郎:もちろんです。
佐平:エンジンが動くとタイヤが回転する。
福太郎:はい。
佐平:タイヤが回転すると車が進む。
福太郎:ええ。
佐平:車が進むとレストランに着く。
福太郎:そうですね。
佐平:これも物事の順番の一例だ。
福太郎:ふ~ん。
佐平:番号を振るぞ。



佐平:車でレストランに行くというのも段階が積み重ねられている。これらの段階にも順番というものがある。物事の流れだ。当然①→②→③→④→⑤の順番だ。
福太郎:そうですね。
佐平:その証拠に①から⑤のどれかに問題が起きたらその下流に問題が生じる。
福太郎:例えば?
佐平:例えばタイヤのパンク。タイヤのパンクは③の「タイヤが回転する」のところに問題が生じている。タイヤの回転がおかしくなる。
福太郎:そうですね。
佐平:すると④の「車が進む」というのにも問題が生じ、当然⑤の「レストランに着く」というのにも問題が生じる。
福太郎:それはそうですが・・。何が面白いの?
佐平:まあ聞け。タイヤがパンクして③に問題が生じても上流には影響しない。①や②には問題が生じない。①のガソリンには問題が生じないし、②のエンジンも動く。
福太郎:ええ。
佐平:②のエンジンが壊れたらどうだ。言ってみろ。
福太郎:②に問題が生じたら③以下が全滅しますね。タイヤは動かないし車は進まない。レストランには行けませんね。でも①のガソリンには影響がない。
佐平:そうだ。やはり①→②→③→④→⑤と物事の順番というか流れがあるのが分かるだろう。

福太郎:言ってることは分かります。
佐平:どんどん例を挙げるぞ。ビジネスで考える。他社にはない優れた技術を持っている会社があるとする。優れた技術があると良い商品ができるな。
福太郎:はい。
佐平:良い商品があると営業がうまくいくよな。
福太郎:基本的にはそうです。
佐平:営業がうまくいくと商品が売れる。
福太郎:ええ。
佐平:商品が売れると売上があがる。
福太郎:はい。
佐平:売上が上がると利益が生じる。
福太郎:そうですね。



佐平:この会社で例えば③の営業が非常に下手だったとしよう。すると下流の④以下に問題が生じる。④の売上が生じないし当然⑤の利益も生じない。しかし営業が下手でも上流の①の「技術力」と②「良い商品」には影響しない。営業が下手でも基本的には技術力や商品の質に直接影響がない。
福太郎:そうですね。
佐平:②の良い商品に問題が生じたらどうなる?例えば①の技術力が優れてても高品質の部品が調達できないなど何か他の理由で良い商品をつくれなかった場合。
福太郎:③以下が全滅します。③の営業はいくら頑張ってもうまくいかないでしょうね。当然売り上げは伸びない。
佐平:仮に強引に③の営業しても、②の商品がだめなら一時的な効果しか無いはずだ。逆に②良い商品ができなくてもそれが原因で①の技術力が落ちたりはしない。
福太郎:そうですね。
佐平:やはり①→②→③→④→⑤の順番だとわかる。物事には順番があり流れがある。
福太郎:それは分かる気がします。
佐平:似たような例だが、これも言っておく。良いビジネスモデルがあるとコストが削減できるな。
福太郎:はい。
佐平:コストが削減できるとサービスが安く提供できる。
福太郎:ええ。
佐平:サービスが安ければ営業がうまくいく。
福太郎:はい。
佐平:すると売上が伸びて利益も上がる。
福太郎:さっきと同じですね。



佐平:これも物事の流れだ。
福太郎:まあそうですね。
佐平:他にも挙げるぞ。良い技術力があると銀行がそれならと言って事業の資金を貸してくれる。
福太郎:はい。
佐平:お金を借りれるので設備投資ができる。
福太郎:はい。
佐平:設備投資ができるので商品が作れる。商品が売れて利益が上がる。
福太郎:ええ。


佐平:これも物事の順番だ。例えば②の資金調達まではうまくいっても③の設備投資が例えば設備をつくってくれる会社と交渉がうまくいかなくてできなければ④以下が全滅する。④の商品の生産は出来ない。⑤の売上も上がらない。
福太郎:そうですね。
佐平:設備投資ができなくても①の技術力には影響せず、②の資金調達も問題が無い。
福太郎:たしかに①→②→③→④→⑤の順番ですね。
佐平:もう一つ例を挙げるぞ。
福太郎:はい。
佐平:オレは最近肩こりがひどい。お前はどうだ?
福太郎:オレもちょっとありますよ。
佐平:肩こりに関する本をかって読んでみた。
福太郎:へえ。勉強してますね。
佐平:その本によると体の使い方が悪いと姿勢が悪くなるという。例えば猫背だ。
福太郎:体の使い方?
佐平:そうだ。お前はよく脚を組んでいるが片方の脚をいつも上にして組んでないか?
福太郎:いつも右脚が上です。
佐平:それが体の使い方が悪い典型例だ。
福太郎:そうなんすか?
佐平:右脚を常に上にして脚を組んだり、右足に常に体重をかけて立っていたりすると姿勢が悪くなる。
福太郎:そうでしょうね。
佐平:猫背も姿勢が悪い一例だ。詳しくは言わないが体の使い方が悪いのが原因だ。
福太郎:そうなんすね?
佐平:姿勢が悪くなると体のあちこちに無駄な力がかかるようになる。
福太郎:わかります。
佐平:無駄な力が日常的にかかっていると筋肉が硬くなり例えば肩こりになる。
福太郎:なるほど。
佐平:肩こりがひどくなると頭痛になる。
福太郎:ええ。


佐平:オレはヨガをやっている。
福太郎:そうですか。
佐平:ヨガは色んなポーズがある。
福太郎:でしょうね。
佐平:その中に「ターダアーサナ」という最もシンプルなポーズがある。単に立っているだけのポーズだ。
福太郎:そうですか。
佐平:しかしこれは正しい立ち方を確認するポーズなんだ。アイアンガー著『ハタヨガの真髄』のターダアーサナの項目に次の記載がある。
ふつう我々は正しい立ち方に注意を払わない。片方だけに体重をかけている者もあれば、片方の足が曲がっている者もある。体重をかかとだけにかけている者、あるいは足の外側だけ、内側だけにかけている者もいる。これは、靴のどこがすり減っていくかによって観察することができる。まちがった立ち方、かたよった体重のかけ方によって身体にゆがみが生じ、脊椎の弾力性が失われる。従って正しく立つ方法を習得することは最も基本的なことである。
佐平:正しい立ち方は正しい体の使い方だ。それが根本だと言っている。正しい体の使い方をしないと身体にゆがみが生じ、姿勢が悪くなる。間違えた体の使い方が諸悪の根源だ。
福太郎:分かります。
佐平:小さい頃大人から「背を伸ばしなさい」と言われたことはないか?
福太郎:あります。
佐平:「気を付けて背を伸ばしていれば、そのうちいつも背が伸びてる状態になり姿勢が良くなる」という考えだ。
福太郎:そうでしょうね。
佐平:もしそれがうまくいけば②の姿勢が悪いというのが改善される。すると③の無駄な力が入るも改善され④の肩こりも改善されるはずだ。
福太郎:そうですね。
佐平:しかしそれは実際にはうまくいかない。気を付けて背を伸ばしてみても一時的な効果しかない。すぐに元の猫背に戻ってしまう。①の体の使い方が改善されてないからだ。体の使い方が悪いのが根本原因で根本原因が解決していない以上、背を伸ばしてみても一時的な効果しかないのだ。
福太郎:分かる気はします。
佐平:マッサージという方法もある。
福太郎:オレたまにしてますよ。
佐平:効くか?
福太郎:効きます。でも一時的な効果って感じですね。
佐平:マッサージは④の筋肉のコリに直接働きかける。確かに効果はある。でもマッサージでは①②③は解決しない。だから相変わらず①体の使い方が悪いし②姿勢も悪い。③無駄な力も入り続ける。だから一時的な効果しかない。
福太郎:そうですね。
佐平:頭痛薬を飲むのも同じだ。⑤に働きかけて一時的に痛みを緩和してくれるが根本治療ではない。
福太郎:たしかに。
佐平:根本原因は①の体の使い方が悪いという点だ。これが改善すれば②の姿勢が良くなる。そして③の無駄な力が入らなくなる。そして④の筋肉が硬いのが改善するようになる。⑤の頭痛が治る。
福太郎:なるほど。
佐平:①の体の使い方が根本原因でそこを改善するのが重要なのだ。そしたら②以下も自然と解決する。
福太郎:じゃあマッサージとか頭痛薬は意味ないんすか?
佐平:意味はある。しかし体の使い方の改善と併用するのはいいのだが、マッサージだけでは根本的な対策ではないという意味だ。
福太郎:でも先輩今でも猫背ですよ。
佐平:やかましい。忙しくて体の使い方の勉強が出来てないだけだ。いずれにしても物事には順番があるというのは分かったか?
福太郎:ええ。分かりました。それが中国思想と何の関係があるんですか?
佐平:中国思想は実はこの物事の順番を非常に重視する。
福太郎:そんなイメージないですね。
佐平:たしかに明言されてる箇所は多くない。しかし物事の順番という考えは常に中国思想の背後にある。通奏低音みたいなものだ。この考えはしょっちゅう出てくる。
福太郎:そうなんですか。
佐平:少し休んでそこから話していくぞ。

続きは『大学』根本と末節をご覧ください。


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■上部に掲載の画像は山下清「ほたる」。


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