真理はすぐれた人材を集める

真理を持ち、情熱がある人には同じように真理を愛する人たちが集まる。その真理が深い真理であればトップクラスの少数精鋭が集まる。組織の大きさよりもトップクラスの人材が集まるかどうかのほうが重要だという。イーロン・マスクに次の言葉がある。

非常に高い技術力を持った少人数のグループと、そこそこの技術力のある大人数のグループ。勝利を収めるのは常に前者だ。

結局、一流の人材を集められるかどうかが、会社の規模や売上より重要だというのである。

しかしトップクラスの人材はそもそも数は多くない。ビル・ゲイツに次の言葉がある。

20人のすぐれた人材を取り除くと、マイクロソフトはそのへんの二流企業の仲間入りをするだろう。

歴史を見ても似たようなことは常に生じる。『三国志』の曹操軍も同じだ。曹操の人格と才能、理念に共感して当時の一流の人材が集まった。荀彧、荀攸、郭嘉、程昱、劉曄、韓浩、陳羣、毛介、張遼、于禁、楽進、徐晃、李典、夏侯惇、夏侯淵、曹仁・・。曹操軍も大体20人くらいの主要な人材を取り除いてしまうと何も残らない。結局一流の人材こそがその組織の本質なのである。

曹操はまだそんなに大きな勢力を築く前に、強大なライバル袁紹と対決した。兵力、経済力で圧倒的に不利な状況だった。その時の曹操の参謀である荀彧の言葉が残っている。引用する。

過去における勝敗を見ますと、本当に才能を持っている者ならば、弱くとも必ず強くなり、人を得なければ、強くとも簡単に弱くなっています。

曹操軍は当時のライバル袁紹に比べると圧倒的に弱かったが、しかし曹操自身もすぐれていたし、多くの一流の人材を持っていた。まだ曹操が弱かった時点での荀彧の言葉だ。この言葉は上記のイーロン・マスクの言葉と同じ内容である。実際曹操軍は袁紹軍に最終的に打ち勝つ。

『論語』に次の言葉がある。

書下し文
舜、臣五人ありて、天下治まる。
武王曰く、予に乱十人あり。
孔子曰く、才難し。それ然らずや。

現代語訳
舜には五人の臣下がいて、天下が治まった。
武王は言った。私には人材が十人いると。
孔子が仰った。人材は得難いというがその通りだ。

孔子も言う通り結局人材を得られるかどうかが重要であり本質だという。舜は上古の帝王。五人のすぐれた臣下がいた。武王には十人の人材。ビル・ゲイツの言った通り20人ではないのかというご指摘もあると思うが、数え方による。曹操軍でも一流の人材は20人くらいだが、超一流は荀彧、荀攸、郭嘉、程昱、劉曄など5人くらい。数は若干適当だ。

スティーブ・ジョブズに次の言葉がある。

アップルは社員のアイデアで成り立っている。つまり人がすべてなんだ。だから毎朝職場に行って、この素晴らしい才能を持った人たちと時間をともにする。私は以前から、人材を集めることが企業活動の要であり真髄だと考えている。

「人がすべてなんだ」とスティーブ・ジョブズは言う。「人材を集めること」が要だと言う。孔子の言葉と一致している。さらにジョブズの言葉を引用する。

うちの会社には一風変わったタイプの人が集まってくる。社運をかけた大仕事を任されるまで5年や10年も待ってられるか、という人たちだ。難しいことに挑戦したい、宇宙に少しでもつめ跡を残したいと心から思っている人たちだ。

アップルに集まるすぐれた人材はみな真理の実現に引かれてアップルに入社している。「宇宙につめ跡を残したい」という言葉からそれが分かる。すぐれた人材を集めるには真理によって集めるしかない。真理を尊敬する優れた人材は真理によってしか集めることができないからである。「たったひとりの熱狂」の時の真理の深さが、人材を集める段階においても最終的に重要なのである。会社の規模に引かれて集まる人材は、場合によっては本当に真理を愛する人ではない可能性がある。安定が好きな人の場合が多い。ちなみに仕事をするときは小さなチームで行ったほうがいいという。有名なベゾスのいう「ピザ2枚のチーム」だ。ベゾスの言葉を引用する。

ピザ2枚で足りないほど大きなチームを作ってはいけない。もちろん大きなことをするためには大きなチームが必要だが、そういう場合は分割すること。複数の小さなチームで大きな作業に取り組めば ― 大変ではあるがそういう組織作りができれば ― 小さなチーム内のコミュニケーションはスムーズで簡単になるだろう。

ビル・ゲイツも似たようなことを述べている。

サイズというのは基本的に優秀さに反するものだ。マイクロソフトの仕事は長いこと、少数精鋭のグループのサポートあってのものだった。会社が成長していくうちに、私たちは組織の中に組織を持つことに取り組み続けてきた。チームを小さく留めることで効果的なコミュニケーションが可能であり、また大きな構造に阻まれて身動きがとりにくくなることもない。

我々も日頃仕事をしていて、ピザ2枚以内のチームがコミュニケーションをとるのに最適だというのはなんとなくわかるだろう。テレビ番組やyoutubeの動画でも、登場する人が多くなりすぎるとあまり面白くなくなる傾向にある。大体8人以内が出演者の個性が生きて面白いような気がする。

しかし、その少数の人材は一流企業では本当に精鋭部隊になる。イーロン・マスクの言葉を引用する。

私が強調しておきたいのは、企業を立ち上げる段階で必要な基本戦略についてだ。「特殊部隊」戦略とでも言っておこう。
最低でもA評価でなければ入隊させない。スタートアップ企業を将来的に優良な大企業にしたいのであれば、このルールを守る必要がある。
勘違いしないでほしいが、この戦略に基づいて除隊させた人たちに何か問題があるわけではない。単にその人が特殊部隊向きなのか、一般部隊向きなのかという違いがあるだけだ。
非常に厳しい環境を乗り越え、最終的に影響力の大きな企業に育てあげることを目指すのであれば、極めて高い能力を持ち、命がけで組織のために働く人材を集める必要がある。

そのようなピザ2枚チームの精鋭部隊がアイデアを改良していく過程をベゾスは次のように表現する。

まず私がアイデアを思いつく。それからみんなを集め、1時間以内にもう100個のアイデアでホワイトボードをみたしていく。

次の言葉もある。『Invent & Wander』から引用する。

アマゾンではだいたい、次のような流れで何かが発明される。誰かがあることを思いつく。ほかの誰かがそのアイデアを改良する。また別の誰か絶対にうまくいかない理由を思いついて反対する。みんなでその反論を解決する。このプロセスはとても楽しい。

恐らく非常にすぐれた人材8人がどんどんアイデアを思いつき改良していくプロセスは大きな力を発揮するのだろう。

■作成日:2023年9月29日

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