無謀に見える大胆な目標も真理にもとづけば不可能ではない

真理にもとづきイノベーションが起きると、組織はそれにもとづいて、周りから見ると無謀とも思える大きな目標を掲げる。しかしその目標は真理にもとづいているため、実際には必ずしも外見ほど無謀ではない。『ビジョナリーカンパニー』ではそのような目標をBHAGと呼ぶ。

B Big 大きく
H Hairy 困難で
A Audacious 大胆な
G Goal 目標

BHAGとは「大きく困難で大胆な目標」である。「社運をかけた大胆な目標」とも言う。具体例を挙げる。

2001年のiPodの広告。

1000曲をポケットに。

現在では当たり前になったが、当時はそんなことが可能なのかと驚いたのを覚えている人もいるだろう。一見無謀に見えるがアップルはそれを実現した。

ジェフ・ベゾスに次の言葉がある。

我々はまだ誰も気づいていない宇宙の利用法を見つけるつもりだ。それが何かはわからないが、宇宙で起業家たちが跋扈する様子を見てみたい。生き生きと躍動する姿が見たいのだ。偉大な産業はひとりの力で築かれるわけではない。単一の企業のみで築かれるわけではない。偉大な産業は複数の企業によって築かれ、それを宇宙でも実現させるつもりである。

ベゾスはブルーオリジンという会社を持っている。宇宙産業の会社だ。ベゾスが掲げる目標は、我々にとっては無謀と見えるかもしれない。

『ビジョナリーカンパニー』から引用する。

BHAGはきわめて大胆であり、理性的に考えれば「とてもまともとは言えない」というのが賢明な意見になるが、その一方で「それでも、やってできないことはない」と主張する意欲的な意見が出てくる灰色の領域に入るものである。BHAGは単なる目標ではない。社運をかけた大胆な目標なのだ。
BHAGは社内から見るより、社外から見たときのほうが、はるかに大胆に見える。ビジョナリーカンパニーはいくら大胆だと言っても、神々を恐れぬほどではないと考えている。掲げた目標を達成できないとは、全く考えてもいないのだ。
登山のたとえで説明しよう。ロープも使わず、ロック・クライミングをしている登山者を下から見上げているとしよう。一歩間違えれば命はない。素人の目には、あんなところを登っているのは、ばかではないにしろ、よほど大胆で冒険好きなのだろうと思える。しかし、本人にとってみれば、自分の力量を考えて、十分に登れる岩場を登っているだけなのだとしよう。この場合、本人はちゃんと練習してきたのだから、集中力を保って一歩一歩登っていけば、失敗するわけがないと考えているはずだ。ロック・クライミングは傍目で見るほど危険なことではない。落ちれば命がないのは確かだが、だからこそやる気になる・・。そう考えている。ビジョナリーカンパニーがBHAGに大胆に取り組むとき、この登山者に似ていると言えよう。

真理にもとづいて目標を立てていれば社内では、その目標は確かに困難だけれど、完全に無謀とは思われない。その真理を知らない社外の人から見ると無謀に見えるだけだ。ベゾスの宇宙産業を作るという目標も、ベゾスたちブルーオリジンの社内の人にとっては無謀ではないのだろう。『論語』学而篇から引用する。

書下し文
信、義に近づけば、言履むべし。

現代語訳
約束は、それが真理に近ければ、言葉通り実行できる。

社運をかけた大胆な目標もそれが真理にもとづくならば、実行できる可能性はゼロではない。

『近思録』出処篇に次の言葉がある。

書下し文
賢者は理に順いて安らかに行う。

現代語訳
賢い人は真理に従い、心安らかに行動する。

真理に従えば大胆な目標も無謀ではないのである。

『近思録』の道体篇に次の言葉がある。

書下し文
物に在るを理と為し、物に処するを義と為す。

現代語訳
物事に内在するのが真理であり、真理に従って物事に当たるのが正しい対処である。

物事に内在する真理に従えば正しい対処になり、目標を実現できる。

『近思録』致知篇に次の言葉がある。

書下し文
ただ理を照らすこと明らかならば、自然に理に順うを楽しむ。理に順いて行うはこれ理に順う事なれば、本より難からず。ただ人知らず、旋として安排著するが為に、則ち難しと言うなり。

現代語訳
真理がはっきり分かりさえすれば、それに従うのが自然に楽しくなる。真理に従って物事を行うのは、そもそも真理に従うのだから、本来難しくない。真理を知らずに、いきなり勝手なことを始めるので難しいと考えてしまう。

真理に従えば物事を行うのは必ずしも難しくないという。真理をとらえない人は難しいと言う。

『鬼谷子』謀篇から引用する。

書下し文
知る者は易しきを事とし、
知らざる者は難きを事とす。

現代語訳
知っている者は、易しいことに取り組むことになり、
知らない者は、難しいことに取り組むことになるのだ。

『ビジョナリーカンパニー 飛躍の法則』から引用する。

悪いBHAGは虚勢によって設定されたものであり、良いBHAGは理解によって設定されたものである。

やはり大胆な目標は真理にもとづいて設定されなければならない。真理を理解したうえで設定されないといけない。真理を持たないと虚勢になる。『ビジョナリーカンパニー』から引用する。

それで組織内に活力がみなぎらないのであれば、それはBHAGではない。

真理にもとづく大胆な目標は組織内に生きた活力をもたらす。

私が日本に生きた普遍的な思想をよみがえらせたいと思っているのも、BHAGである。他人からしたら無謀だろう。いや実際無謀かもしれない。でも私自身は十分に試行錯誤すれば少しくらいは可能性がある気がしている。まだまだ試行錯誤は続く。

■作成日:2023年10月2日

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