自分の情熱は他人に波及する

ビジネスも思想も「たったひとりの熱狂」から始まる。ひとりの人間が真理に夢中になることから始まる。しかしその情熱は他人に波及していく。他人もその人の持つ真理にひかれていく。『スターバックス成功物語』に次の言葉がある。

あなたが引きつけられるものは、ほかの人たちもひきつける。

ひとりの人が真理に夢中になると、そのうちほかの人もその真理に引きつけられる。『言志耋録』に次の言葉がある。

書下し文
我、自ら感じて、而る後に人、これに感ず。

現代語訳
まず自分が真理に感動して、その後にほかの人をも感動させられる。

まずは「たったひとりの熱狂」が必要。その後ほかの人も感動する。チャーチルに次の言葉がある。

感情で国民を動かす前に、自分が感情に動かされなければならない。国民に涙させる前に、まず自分が涙を流さなければならない。国民を説得する前に、自分が信じなければならない。

やはり「たったひとりの熱狂」が必要だとチャーチルも述べている。それが元になってほかの人も感動させていく。

松下幸之助に次の言葉がある。『一日一話』から引用する。

いかに才能があっても、知識があっても、熱意の乏しい人は画ける餅に等しいのです。反対に少々知識に乏しく、才能に乏しい点があっても、一生懸命というか、強い熱意があれば、そこから次々とものが生まれてきます。その人自身が生まなくても、その姿を見て思わぬ援助、目に見えない加勢というものが自然に生まれてきます。それが才能の乏しさを補い、知識の乏しさを補って、その人をして仕事を進行せしめる、全うさせる、ということになるわけです。あたかも磁石が周囲の鉄粉を引きつけるように、熱心さは周囲の人を引きつけ、周囲の情勢も大きく動かしていくと思うのです。

やはり熱意は他人に波及していくのが分かる。磁石のように周囲の人を引きつける。コールリッジ『テーブルトーク』に次の言葉がある。

心からあふれ出たものは、心に注がれる。

ひとりの人が孤独のうちに真理に夢中になりその情熱が心からあふれ出ると、その真理と情熱はほかの人の心にも注がれる。

たとえば『三国志』の曹操も同様である。彼は当時の混乱した中国に秩序を取り戻そうと情熱を持っていた。そして人間的な大きさとすぐれた知性を持っていた。その曹操こそ中国に平和をもたらす人物だと考えた非常にすぐれた人たちがたくさん集まった。荀彧、荀攸、郭嘉、程昱、劉曄たちだ。彼らは曹操が持っていた人徳、知性、情熱という真理に共感し、中国に平和をもたらすという彼の大義に感動して集まったのである。

曹操が旗揚げする前、友人でのちのライバルの袁紹と今後の抱負を語った次の言葉がある。

袁紹「私は南方は黄河に頼り、北方は燕・代を頼みとし、戎狄の軍勢を合わせ、南に向かって天下を争う。だいたい成功すると思いますが。」
曹操「私は天下の知者勇者にまかせ、道義をもって彼らを制御する。うまくいかないことはないでしょう。」

ライバルの袁紹は有利な地形や異民族の強力な軍隊に着目している。実利重視。それに対し曹操は道義を重視し、それに共感する知者勇者という人材を重視しているのが分かる。道義という真理に依っていて、その真理に共感する人材を重視している。曹操の着眼点がすぐれているのが分かる。

何でもそうである。自分を飾らなければ、素の自分を好きな人が集まる。自分を飾れば「飾った自分を好きな人」が集まる。食べ物がおいしいですよといって人を集めれば、食べ物が好きな人が集まる。金で人を集めれば金が好きな人が集まる。同様に真理で人を集めれば真理を愛する人たちが集まる。

たとえばイーロン・マスクに次の言葉がある。

このテクノロジーはすごいと思ったことが何度かあるが、その多くは米国のものだった。もう少し範囲を広げて北米のものだったと言ってもいいだろう。私は最先端のテクノロジーが存在する場所に行きたかった。米国内であれば当然シリコンバレーが中心地だ。でも当時はシリコンバレーがどこにあるか知らなかったよ。名前からしてこの世に存在しない場所のようだし。

イーロン・マスクは最先端のテクノロジーが存在する場所に行きたかったと述べている。やはりマスクのような真理を愛する人は真理がある場所に引かれるのである。イーロン・マスクは南アフリカ出身である。アメリカには世界トップクラスの人材が集まるのに、日本には集まらないのはなぜか。それは日本で真理が実現されている程度が十分ではないからだ。真理に引かれ、真理を尊敬し、真理を愛し、真理を持ち、真理を実現できる人は、真理を最も体現している地域や会社に集まる。食べ物がおいしいですよと言って人を集めても、食べ物が好きな人が集まるだけである。私がやっているように真理を議論することも大切だが、それでは真理を議論するのが好きな人が集まるだけである。真理を実現すれば真理を実現することを好きな人が集まる。

『荀子』不苟篇に次の言葉がある。

書下し文
君子はその身を潔くしてこれに同じき者も合し、
その言を善くしてこれに類する者も応ず。
故に馬鳴きてこれに応ずるは知に非ず。
その勢、然らしめしなり。

現代語訳
すぐれた人は自分自身を清くして、同じく清い人が集まり、
その言葉をすぐれたものにして、同じくすぐれた人がこれに応じる。
馬がいなないて他の馬もそれに応じるのは知的な計算によるものではない。
その自然な勢いがそうさせるのである。

真理を実現すると真理を尊敬する人が集まるのも、自然な勢いでそうなるのであって浅薄な計算に基づくものではない。そこには自然な力が働く。中国思想ではこの「自然な力」を重視する。「自然な力」こそが真理が持つ力の現れであるからだ。

スティーブ・ジョブズに次の言葉がある。

アップルのみんなを結びつけていたのは、ここなら世界を変えるようなものがつくれるってことだ。それがとても大きな意味を持っていた。

アップルのすぐれた人たちはやはりアップルという会社に真理の実現を見出しているのだ。真理は世界を変える。真理を尊敬し、真理を実現するひとたちは、真理のある場所に集まるということがよくわかる言葉である。

『論語』顔淵篇に次の言葉がある。

書下し文
曾子曰く。
君子は文を以て友を会し、
友を以て仁を輔く。

現代語訳
曾子が言った。
すぐれた人は学問で友を集め、
友によって仁の成長を助ける。

すぐれた人が友人を持つのは、互いに互いのもつ学問、真理に共感しているからである。ビジネスにおいてすぐれた人が真理に共感して集まるのと同じである。

■作成日:2023年9月28日

続きは真理はすぐれた人材を集めるをご覧ください。

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