すぐれたビジネスは「真理の実現」である

すぐれたビジネスは真理の実現である。単なる金儲けではない。個人的には単なる金儲けを否定するつもりはない。しかし偉大な企業は真理を持ちビジョンを持つ。『ビジョナリーカンパニー ZERO』から引用する。

金儲けのためにビジョンはいらない。ビジョンがなくても儲かる企業は間違いなく作れる。説得力のあるビジョンがなくても、大金持ちになった人はたくさんいる。だがあなたが金儲けだけが目的ではない、時代を超えて存続する偉大な企業をつくりたいなら、ビジョンが必要だ。

偉大な企業はビジョンを持つ。「社運をかけた大胆な目標」である。2001年アップルのiPodの広告。

1000曲をポケットに。

現在では当たり前になったが当時はそのすごさに驚いたものだ。アップルは常にビジョンをもっている。ジョブズに次の言葉がある。

もしアップルが存在しなかったらどうなるか?想像してみてほしい。来週、『TIME』誌は発行されないだろう。明日の朝、米国内の約70%の朝刊は発行されないだろう。子供の60%はコンピュータを持っていないだろう。教師の約64%はコンピュータを持っていないだろう。Macで作成されたウェブサイト、つまり全ウェブサイトの半数以上は存在しないだろう。

ジョブズのビジョンが社会に大きなインパクトを与えてきたのは事実である。ビジョンの実現とはその人が持つ真理の実現である。すぐれたビジネスとは「たったひとりの熱狂」で夢中になった真理を深めて、「社運をかけた大胆な目標」として掲げ、それを実現する過程である。

イーロン・マスクに次の言葉がある。

テスラの目標は一流ブランドになることでも、ホンダ・シビックと張り合うことでもない。正しくは電気自動車への移行を推し進めることだ。車業界全体が電気自動車一色になるまで、さらに多くの電気自動車を作って価格を下げ続けていく。
テスラが10年前の創業時に立てた目標は今も変わっていません。その目標とは「大衆向けの魅力的な電気自動車をできるだけ早く市場投入し、持続可能な輸送手段の普及を加速させる」ことです。

テスラの理念は世界におけるガソリン車から二酸化炭素排出量の少ない車への移行である。それで環境問題を解決すること。明らかに壮大なビジョンがある。「社運をかけた大胆な目標」である。

ビル・ゲイツに次の言葉がある。

「ブレークスルー」と呼ばれるような発見とは、何億人もの人々の行動を変えるものを指す。それがなくなれば、人々が「取り上げたりしないで」と懇願するようなものだ。私たちにとってブレークスルーは非常に重要だ。今ほどの利益が上げられているのも、いくつものブレークスルーを生み出したからだ。今日、私たちのソフトウェアを手にした人は、永遠に使い続けることができる。こちらに1銭も払うことなくね。

AWS、Amazon Web Serviceというサービスがある。だれでもITインフラをクラウドを通して従量制で手軽に使えるサービスである。アマゾンによるサービス。『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』に次の言葉がある。

世界的大企業と同じインフラストラクチャーを寮に住む大学生が使える世界を考えたのです。大企業と同じコスト構造が持てるというのは、スタートアップや小企業にとって互角に戦える場ができるということですから。

2011年のベゾスレターに次の言葉がある。

発明はその形も規模もさまざまです。中でも、人々に力を与え、その創造性を解き放ち、夢を追いかけることを可能にするようなものこそ、世の中を一変させる劇的な発明と言えるでしょう。それがまさにアマゾンウェブサービス、フルフィルメントバイアマゾン、キンドル・ダイレクト・パブリッシングで起きていることです。

「人々に力を与え、その創造性を解き放ち、夢を追いかけることを可能にする」というのがベゾスのすぐれたビジョンである。AWSはその典型。

ベゾスに次の言葉がある。

私の出発点は使命です。
私は、金の亡者ではなく伝道師の道を常に選びます。ただなんとも皮肉なのは、普通、伝道師のほうがたくさんのお金を儲けてしまうという点です。

ベゾスの出発点は使命である。真理の実現である。もともとは孤独のうちに培った理念を「社運をかけた大胆な目標」として掲げ、現実の社会に実現することである。その使命は真理にもとづいている。だから大胆な目標ではあっても実現は可能である。

ベゾスの次の言葉がある。

第二次世界大戦後にソニーが成し遂げたような、個人の力を超える大きな使命を持つことの重要性を、ずっと感じてきた。彼らは日本という国を安物のコピーではなく、上質さの代名詞にしたいと望み、見事に成し遂げた。わが社の使命は、顧客に新しいレベルの期待をもたらし、ほかの企業にもそのレベルを上げてもらうことである。それがかなえば実に意義深く、孫に語り継げる話となるだろう。これが使命と仕事の違いである。ただの仕事なら孫に聞かせられるような話は残らない。

アマゾンはたしかに我々顧客の要求水準を上げた。それによってほかの企業もそのサービス水準を上げる。世界中でこれが起きるとなるとアマゾンの世界全体で実現した価値の大きさが分かる。それが「使命」である。「真理の実現」がそこにある。単なる「仕事」ではない。仕事は単なる金儲けである。そこにすぐれた「真理」は無い。

『荀子』栄辱篇に次の言葉がある。

書下し文
義を先にして利を後にする者には栄あり。
利を先にして義を後にする者には辱あり。

現代語訳
真理を先に考えて利益を後にする者には栄誉がある。
利益を先に考えて真理を後にする者には恥辱がある。

ベゾスの出発点は使命感である。真理の実現である。真理を先にする。そしてその結果利益がついてくる。利益を後にするのである。荀子の言葉通りである。『言志耋録』に次の言葉がある。

書下し文
是非の心は人皆これ有り。
ただ通俗の是非は利害にあり。
聖賢の是非は義理にあり。
是非、義理に在れば、則ち遂にまた利ありて害無し。

現代語訳
人にはみな善悪を知る是非の心があると言う。
しかし世間でいう是非は得か損かということであり、
すぐれた人のいう是非は真理があるか無いかということである。
是非を真理によって判断すれば最終的には利益があって害がない。

起業においてもすぐれた人は真理にもとづく。普通の人は損得にもとづく。

ジェフ・ベゾスはブルーオリジンという宇宙産業の会社を立ち上げている。次の言葉がある。

私がブルーオリジンで実現させたいのは、過去21年の間にインターネット上で起こったような、何千という会社が宇宙で爆発的に起業できる重厚な基盤を築くことだ。
宇宙は広いので多くの勝者を受け入れることができる。スペースXもヴァージン・ギャラクティックも、その他多くの企業に進出してほしい。巨大な産業はひとつの企業では起こせないが、複数の企業が協力すればひとつの生態系を構築できるだろう。
我々はまだ誰も気づいていない宇宙の利用法を見つけるつもりだ。それが何かはわからないが、宇宙で起業家たちが跋扈する様子を見てみたい。生き生きと躍動する姿が見たいのだ。偉大な産業はひとりの力で築かれるわけではない。単一の企業のみで築かれるわけではない。偉大な産業は複数の企業によって築かれ、それを宇宙でも実現させるつもりである。

ベゾスの目標は宇宙産業の先駆者になることだ。そしてほかの後発の企業がたくさん増えて宇宙産業という巨大な生態系ができることである。フォロワーたちがのちに増えることもあらかじめ計算しているのである。壮大なビジョンである。

アラビアのロレンスに次の言葉がある。

夜、疲れた心の片隅で夢見る者は、
目覚めとともに夢の空しさを知る。
だが真昼に夢見る者たちには心せよ。
彼らはしかと目を見開き、夢を実現させるであろう。

真理を実現するビジョナリーカンパニーは、「真昼に夢を見る者たち」である。

■作成日:2023年10月3日

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