ビジネスリーダーとフォロワー

すぐれたビジネスは真理の実現過程である。真理が見える人、本質が見える人はその真理を実現する。ビジネスリーダーである。

ビジネスリーダーの成功を見て、それを模倣する人がいる。フォロワーである。フォロワーには真理、本質は見えていないけれど、ビジネスの現象が見えている。ビジネスに詳しくない、たとえば私は、その現象も見えていないというわけだ。

すでに述べたように真理は別の分野をつなぎイノベーションを生む。ビジネスリーダーはイノベーションを起こし、それをビジネスとして世の中に実現する。スティーブ・ジョブズに次の言葉がある。

リーダーとフォロワーの違いはイノベーションの有無にある。

スティーブ・ジョブズは常にビジョンを持っていた。真理を観ていた。次の言葉がある。

我々はビジョンに賭けている。そのほうがどこかの後追い製品をつくるよりいい。そういうのは他の会社に任せるよ。我々は常に次の夢を追いかけているんだ。

私は別にフォロワーを非難する気はない。Googleはビジネスリーダーだが、後追いをすることもある。Android携帯だってiPhoneの後追いだし、それはすごいことだ。私にはもちろんそれすらできない。しかしたしかにビジネスリーダーのほうがフォロワーよりもっとすぐれているのは間違いない。

『老子』第一章に次の言葉がある。

書下し文
常に無欲にして以ってその妙を観、
常に有欲にしてその徼を観る

現代語訳
常に無欲であれば妙なる本質を観るが、
常に有欲であれば錯綜した現象を観る

欲というノイズが無い純粋精妙な精神に至った人は本質を見ると述べている。欲と言うノイズがあると錯綜した現象を見る。ビジネスリーダーは本質が見える人であり、フォロワーは本質が見えない人であり、しかし少なくとも現象は見えている人である。

下図は本質が見えている人。

下図は現象が見えている人。

『礼記』楽記篇に次の言葉がある。

書下し文
礼楽の情を知る者は能く作る。
礼楽の文を識る者は能く述ぶ。
作る者をこれ聖と言い、
述ぶる者をこれ明と言う。

現代語訳
礼楽の本質を知る者は新しい礼楽を興すことができる。
過去の偉大な礼楽の現象を理解する者は過去の礼楽を受け継ぐことができる。
礼楽を興す人物を聖と言い、
礼楽を受け継ぐ人を明と言う。

礼儀と音楽で人々を導くという思想が古代中国にはあった。礼楽とは広い意味での思想のようなものである。

過去の礼楽を見たり聴いたりしてその本質見抜いた人は、その本質を現代に合うような形で新しく作り直すことができる。過去の礼楽を見たり聴いたりして、その現象が見える人は、過去の礼楽を受け継ぐことができる。

思想も同じである。思想の本質が見える人は過去の思想からその本質を取り出し現代的に新しく表現しなおすことができる。思想家である。思想の現象、つまり書いてある言葉を理解する人は思想を受け継ぐことができる。思想の研究者である。

ビジネスも恐らく同じで、本質が見える人はビジネスリーダーになり、現象が見える人はフォロワーになる。スティーブ・ジョブズはピカソの言葉を引用して次のように言う。

最終的にはセンスにつきる。人類がつくりだしてきた最高のものに触れ、それを自分自身がつくり出すものに取り入れられるかどうかだよ。ピカソは「すぐれたアーティストは真似る。偉大なアーティストは盗む」と言った。素晴らしいアイデアがあれば、我々はいつだって堂々と盗んできた。

「すぐれたアーティストは真似る」というのは、現象が見える人はそれを模倣するという意味である。「偉大なアーティストは盗む」とは、本質が見える人は本質を盗むという意味である。

ビジネスリーダーにとっては真理はコンパスのようなものかもしれない。MITの9プリンシプルのひとつに compass over maps というのがある。地図よりコンパスを、と言う意味である。『ビジョナリーカンパニー ZERO』から引用する。

会社のビジョンは、あらゆる階層の社員が意思決定をするためのコンテクストとなる。その重要性はどれほど強調しても足りないほどだ。
ビジョンを設定するのは、コンパスと遠く離れた山奥の目的地を持つようなものだ。仲間にコンパスを与え、目的地を示し、自由に目指してほしいと告げれば、おそらくそれぞれ自力でそこに到達する道を見つけるだろう。障害物に道を阻まれたり、回り道をしたり、曲がり角を間違えたり、峡谷に迷いこんだりすることもあるかもしれない。それでも方向性を示すコンパスと明確な最終目標と、目指す価値のある目的地に向かっているのだという信念があれば、恐らく目標に到達する。
対照的に、共通の目標がない会社にはコンテクストがない。すると社員は峡谷に迷い込み、果てしなく回り道をすることになる。不変の目標に沿うように主体的に意思決定をするのではなく、ひっきりなしに出動要請のかかる消防隊のように、次々発生する危機や事業機会に振り回される。

明確な答えがない時代は地図の無い時代である。地図がない以上、真理と言うコンパスが必要になる。現代日本はこのコンパスがない状況に見える。「ひっきりなしに出動要請のかかる消防隊」のようである。「次々発生する危機や事業機会に振り回される。」

『ラストオブアス2』というゲームに次のような趣旨のユダヤの格言が引用されている。

暗闇はたった一本の蝋燭の火で追い払えるのです。

蝋燭の光はビジネスでは真理である。

『言志晩録』から引用する。

書下し文
一燈を提げて暗夜を行く。
暗夜を憂うること勿れ。
只だ一燈を頼め。

現代語訳
提灯を提げて暗い夜道を行く。
暗闇を恐れるな。
ただひとつの灯りを頼みとして進め。

「たったひとつの灯り」とは真理のことである。

■作成日:2023年10月6日

続きは真理を持つと勇気が出るをご覧ください。

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■上部に掲載の画像は山下清。