天才と精神病質

性格は天才と全く関係がない。IQは多少関係あるが必ずしも関係がない。それに対して多少説得力があるのが天才と精神病の関係である。ランゲ=アイヒバウムの『天才 創造性の秘密』から引用する。

ある地方の全住民と精神障害者をくらべてみるなら、精神病院に主要されている者だけでも0.2%から0.3%、全体ではたぶん全住民の0.5%にも及ぶ異常者を発見できるだろう。この平均0.5%という率と対比的に、天才の方は生涯に一度は精神病的な状態をしめしたものが12%から13%にもなる。

ランゲ=アイヒバウムは精神病者は通常は0.5%の確率で出現するが天才では12%の高い確率で出現すると言っている。確かにこの数値から天才においては精神病的な要素が大きいと言える。しかし12%であれば大して関係がないのではないかと考える人もいるだろう。しかしランゲ=アイヒバウムはこう続ける。

けれども「特に有名な」人物だけを選び出して見れば78人のうち①一度は精神病的状態を示したもの37%以上。②きわめて精神病質的なもの83%以上、③軽度の精神病質的なもの10%以上。④健康なもの6.5%となる。

天才の中でも優れた人々は精神病質の割合がさらに大幅に上がると言っている。さらにこう続く。

最高級の天才35人を選ぶとさらに多少上昇し、精神病的なもの40%、精神病質的なもの90%以上、健康人8.5%である。

40%の方は「精神病的」であり、90%の方は「精神病『質』的」なものである。「質」があるかどうかで違っている。よく読んでいただきたい。この部分の引用に関し福島章『天才 創造のパトグラフィー』に解説がある。

ここで「精神病質的」と言っているのは単なる異常性格という意味ではなく、正常と精神病のあいだの中間状態を指すものである。

最高級の天才は完全な病気である「精神病」より、少し病気である「精神病質」が多いのである。「正常と精神病のあいだの中間状態」が多い。

天才研究をしたことがない人は天才と精神病の関係を否定したがる。天才研究をしている人は逆に天才と精神病の関係を強調したがる。私は天才と精神病は関係があるが全く別物だと考える。その点は後ほど説明する。

ランゲ=アイヒバウムはこう述べる。

天才の多くは精神病ではなく精神病質である。

天才と精神病が関係があるなら「天才とは精神病である」と述べたほうが正しいかはさておいて少なくとも論旨が一貫する。しかし天才研究者は「完全な精神病は天才になりづらい」と言う。そうではなくて「精神病質」つまり「正常と精神病の間の中間状態」が天才に多いと言う。

非常に歯切れが悪いのが分かるだろう。「天才は健康な人だ」とか、逆に「天才は精神病の人だ」と言われれば少なくとも論旨が一貫する。しかし「正常と精神病の間の中間状態」の人が多いというのは非常に歯切れが悪い。

仕方ないので仮に「正常と精神病の間の中間状態」が天才だと結論しよう。それが正しいかと言うと決してそうではない。「正常と精神病の間の中間状態」の人は世の中にたくさんいる。しかしそのほとんどは天才ではない。天才には「正常と精神病の間の中間状態」の人が多いが、「正常と精神病の間の中間状態」の人だからと言って天才になるわけではないのだ。

さらに少数ながら完全な精神病の天才は存在し、逆に完全に健康な天才も少数ながら存在する。「正常と精神病の間の中間状態」が天才の条件と言っておきながら完全に健康な人もいるというのは論旨が一貫しない。少数でも完全に健康な天才がいるのであれば精神病の要素は天才と関係がないのではないかとも言える。「一体どっちなんだ」と言いたくなるだろう。

要は「天才とは何か」に関してそれなりに研究は進んでいるが、解明はされていないのである。

歯切れの悪さの原因

これから詳しく述べていくがとりあえず天才研究における歯切れの悪さの原因を簡単に述べておく。ある物事がひとつの要因から決定されている場合はその研究は非常に一貫する。天才がひとつの要素から成り立つなら天才論は一貫する。ある物事が成り立つのにAという要素だけが必要であれば「Aの場合に成り立ちますよ」と非常に一貫した説明になる。例えば「天才とはIQが高い人ですよ」とか「天才は精神病の人ですよ」言えば論旨は一貫する。

しかしある物事が成り立つのにAという要素とBという要素が複合的に原因になっている場合は途端に歯切れが悪くなる。「Aの場合に成り立つ場合が多いですが、Aではなくても成り立つ場合もあります。」などである。

要は天才は複数の原因が複合的に原因となって成立している現象だと私は考えている。それで非常に歯切れが悪い。他にも理由がある。どのような原因が関係しているかはこれから述べていく。

続きは神経症をご覧ください。


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