天は長く地は久し~老子を読む7

11.天は長く地は久し

 第七章に次の言葉がある。

 

書下し文
天は長く地は久し 
天地の能く長く且つ久しき所以の者は
其の自ら生ぜざるを以ってなり

現代語訳
天は永遠であり、地は久遠である 
天地が永久でありうるのは
自分で生きながらえようとしないからである

 天地の無欲を説いている。天地が生きながらえようと欲すれば、そこから不自然さを生じ副作用が徐々に生じていき、 最終的に永久さを保てないというのである。

 聖人は天地の則るのであるから、第七章は次のように終わる。

書下し文  
私無きを以ってにあらずや、
故に能く其の私を成す

現代語訳  
聖人は私利私欲がないため、
かえって自分自身を貫けるのである

 私利私欲があればそこから副作用と不自然さが生じ、徐々に自己実現が出来なくなるというのである。

 聖人が世の中を治める方法を第三十五章では次のように描写している。

書下し文  
大象を執れば天下往く 往きて害あらず 安平泰なり

現代語訳  
大いなる象(かたち)を掌握すれば
世界中が自然とその人物に集まる 
集まっても害はなく 
天下は安らかで平穏でゆったりとする

 「大象=大いなる象」とは大道を指す。大道を体現した聖人に世界の人や物が自然と集まる。集まってきても世界に害はない。世界は紛糾せず自然な状態に落ち着くのである。 天下は安らかで平穏になる。「往きて害あらず」というのが「大道に依れば副作用がない」という思想の典拠である。

 第三十二章に次の言葉がある。

書下し文  
道の天下に在けるを譬うれば、
なお川谷の江海に於けるがごとし

現代語訳  
道が天下を治める在り方は、
大河や海が川や谷間の流れを自然と集めるのに似ている

 大河が川の流れを自然と集めるように、道を体現した聖人には世界の人々や物が集まってくるというのである。

 

12.上徳は徳とせず是を以って徳あり

 第三十八章に次の言葉がある。

書下し文  
上徳は徳とせず 是を以って徳あり 
下徳は徳を失わざらんとす 是を以って徳なし

現代語訳  
高い徳を持つ人物はその徳を意識しない 
そのため真の徳がある
低い徳を持つ人物はその徳を失うまいとする 
そのため真の徳がない

 逆説的表現により、読む者を思想の深淵にいざなう老子の言は非常に魅力的である。高い徳を持つものはその徳を自然に行う、そのため真の徳があり、 低い徳を持つものは徳を失うまいとする人為がある、そのため真の徳がないと言うのである。 老子はやはり一面的であるが確かに真理の一側面を正しく指摘していると言える。 

続きは無為にして為さざる無し~老子を読む8をご覧ください。

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