古の道を執りて今の有を御す~老子を読む12

20.古の道を執りて今の有を御す

 第十四章に次の言葉がある。

書下し文  
古の道を執りて以って今の有を御すれば
能く古始を知る
是を道紀という

現代語訳  
いにしえの大道によって現代の複雑な現象を制御すれば、
いにしえの始源を知るのであり、
それを道の大綱と呼ぶ

 「古の道」とは上古のシンプルで自然なあり方で世の中を治める方法であり、「今の有」と言うのは現代の複雑な差別相を指す。 いにしえの自然なあり方で現代の複雑な状況を御していくのが道の大綱だというのである。

21.現代世界と老子

 老子は上古に帰れと主張する。しかし我々は新しい複雑な知や文化、技術が大切であると知っている。老子の主張はやはり一面的である。

 現代社会は非常に複雑である。欧米で発達した科学、技術、思想、社会制度などの「有」の文化は世界に大きな進歩をもたらした。 特に近代においてであるが、現代でもそうである。

 欧米においてはそれらの文化は自前の文化であるため、それらは複雑ではあるが、全体としてはある程度の調和と自然さが保たれている。

 それに対して日本においてはそれらの文化は当然外来文化として取り入れられたのであって、元から日本にあった文化とは必ずしも整合しない。 そのため現代日本の文化は全体としての調和を欠いた状態と言える。

 現代日本文化はある意味最も複雑で錯綜していると言えるかもしれない。しかし多くの国、宗教、価値観、民族、社会制度が集まる世界全体は日本よりはるかに複雑であるのは言うまでもない。

 複雑な現代の文化のその複雑さを保持しつつ、全体として自然な調和のとれた新しいあり方にかえていくというのが「古の道を執りて今の有を御す」=「いにしえの大道によって現代の複雑な現象を制御する」 の意味である。

 これは言うのは易しいが実際に行うのは極めて難しい。仮に天才が現れても完全に実現できるとは思えない。周の文王や孔子のような聖人を待つしかないのかもしれない。 事実かどうかは知らないが周の文王は『孟子』から引用したように、欲を正しい方向に転化できたのである。

 いずれにしても『老子』全体を読むと、彼は単に古に還るのを理想としているようだが、この章では「今の有」に一定の意味を与えている。「今の有」をなくすのではなく 保持しつつ制御するというのである。

続きは常無と常有~老子を読む13をご覧ください。

■このページを良いと思った方、
↓のどちらかを押してください。



■関連記事