自らあらわさず故に明らかなり~老子を読む6

9.プラスの効果とマイナスの効果

 「鍵を用いると確実に門を閉じれるが鍵を開けようとする者をかえって引き付けてしまう」と述べた。 大道に従わず人為的な方法で解決すると一見うまくいくように見えて実際には副作用を生じてしまうのである。 それに対して大道による自然な方法であればその副作用は生じない、と老子は主張する。

 老子からやや離れて考える。積極的で人為的な方法で鍵をかけた場合、プラスの効果とマイナスの効果が同時に生じると私は考える。簡単にまとめる。

 積極的方法のプラスの効果
 →門を確実に閉じれる
 積極的方法のマイナス効果
 →門を開けようとする人を呼び寄せてしまう副作用が生じる

 同様に消極的で自然に門を閉じる方法にもプラスの効果とマイナスの効果がある。

 消極的方法のプラスの効果
 →自然な方法により門を閉じれて副作用が生じない
 消極的方法のマイナス効果
 →門を確実には閉じれない

 老子は「積極的方法のマイナスの効果=人為的行為による副作用」と「消極的方法のプラスの効果=問題の自然な解決」を強調する。 しかし我々は積極的方法のプラスの効果と消極的方法のマイナス効果も知らなくてはならない。

10.自らあらわさず故に明らかなり

 人為的行為による副作用を戒め、大道による自然な解決を重視する思想は老子の至る箇所にある。 第二十四章に次の言葉がある。

書下し文  
自ら見(あら)わす者は明らかならず 
自ら是とする者は彰(あら)われず

現代語訳  
自分で自分をあらわそうとする者は人々に知られず、
自分で自分を正しいとする者はその正しさを認められない。

 現実には自分の才能や自分の正しさを主張するのはその当人の責務ですらある。そして自己主張すれば人々に知られたはずなのに、 それを行わなかったため人々に知られず一生を終える場合も当然ある。 しかし、自分で自分の才能や正しさをあまりに主張すると、老子の言う通り、どこか胡散くさいとという印象を与える場合も確かにある。副作用が生じるのである。 自分自身で主張するより、逆に多くの人から推薦されて人々に知られていく方がより自然な方法だと老子は言う。

 第二十二章に次の言葉がある。

書下し文  
自ら見(あら)わさず故に明らかなり 
自ら是とせず故に彰かなり

現代語訳  
自分で自分をあらわそうとしない者は人々に知られ、
自分で自分を正しいとしない者は正しさを認められる

 自己主張は正当な行いであり、言うべき内容を持っている者は自己主張をすべきである。 しかし、多くの人々から推薦されて知られていくのも正しい正統な世の中への知られ方であるのだから、 老子は確かに真理の一部を正しく的確に言い表しているといえる。

 第三章に次の言葉がある。

書下し文  
賢を尚(たっと)ばざれば民をして争わざらしむ

現代語訳  
才能ある者を尊重しなければ人民は争わなくなる。

 世の中をよくするためには賢者は不可欠であるが、賢者を尊重すると人民は争いあい世界は紛糾し錯綜するという結果が生じると老子は言う。 老子は正しいがやはり一面的と言える。

続きは天は長く地は久し~老子を読む7をご覧ください。

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