無極に復帰す~老子を読む11

18.反とは道の動なり

 第四十章に次の言葉がある。 

書下し文
反とは道の動なり

現代語訳
根源に回帰するのが道の運動である

 いにしえの根源の状態に還るのが道の運動だと言う。人為的行いをひとつづつ減じていき、さかしらな知恵が生ずる前の自然な状態に還るのである。

 第二十八章から引用する。

書下し文
其の雄を知りてその雌を守れば天下の谿となる。
天下の谿と為れば常徳は離れず嬰児に復帰す

現代語訳
男性的な力強い立場を知りながら
女性的な従順な立場を守れば
世界の人や物が集まってくる谷となる。
世界の谷となれば常なる徳は離れなくなり、
太古の赤ん坊の状態に戻る

 相矛盾する男性的な力強い立場と女性的な従順な立場が相補い合い円環しているのを知れば天下の谷となる。 谷には水の流れが自然と集まってくるように、聖人には世界の人々や物が自然と集まってくる。 そうなれば常なる徳は聖人に自然に身に付き、常なる徳は聖人から離れなくなり、根源的状態に復帰する。

 第二十八章からさらに引用する

書下し文
其の白を知りてその黒を守れば天下の式となる
天下の式となれば常徳は違わず無極に復帰す

現代語訳
はっきりした光明の立場を知り
目に見えない暗い立場を守れば天下の模範となる
天下の模範となれば常なる徳は誤らず、
無限定の状態である無極に復帰する

 無極とは相対立する2つの概念、陰と陽、例えば黒と白、が生じる前の無限定の状態を指す。聖人は自然な状態に戻り、大道を体現するというのである。

19.大制は割かざるなり

 第二十八章からさらに引用する

書下し文
樸散ずれば則ち器となる
聖人これを用ふれば則ち官長と為る
故に大制は割かざるなり

現代語訳
樸(あらき)が分けられると道具となる
聖人はそのような人材を用いて各分野の長とする
よってすぐれた分割は素材を分割しないのである

 樸、あらきとは切り出したばかりの丸太のようなものである。それが分割されいろいろな道具がつくられる。道具はそれぞれ用途があるが樸にはその用途がない。 木を切って馬車をつくれば、馬車は人や物を運ぶという専門の用途を受け持つ。 用途がある道具は人材で言えばそれぞれ専門を持った人材たちである。樸は用途がなく人材で言えば聖人であり特に専門を持たない。

 聖人は樸の状態に還り、自分自身は専門を持たず、専門を持った人々を用いて天下を治めるのである。

続きは古の道を執りて今の有を御す~老子を読む12をご覧ください。

■このページを良いと思った方、
↓のどちらかを押してください。



■関連記事