思想を広めることを目指している。メインターゲットは現代日本人のうち、思想を読めるが読んだことない人である。もっというと思想以外の他の分野で活躍している人。
思想を読めない人は必ずいる。分かりやすく伝えれればよいのだが、そもそも思想というものはそれなりに難しいので、限界がある。ある程度、割り切らざるを得ない。
思想を普段から読む人に伝えるのもよいが、そういうひとは恐らく伸びしろが少ない。すでに伸びた後だからだ。
他分野で活躍している人は、優秀なので恐らく思想を理解できる。さらに思想を読んだことないので伸びしろが大きい。例えば野球の野村監督である。次の言葉がある。
言葉の大切さを私が痛感させられたのは南海を引退した後、評論や講演の活動をはじめたときだった。評論を読んだり講演を聞いたりするのは、一般の野球ファンであり、プレー経験を持たない人のほうが多い。そんな人たちに野球の魅力、醍醐味、奥深さを伝えるためには、的確にしてわかりやすい言葉が必要だ。
私は野球に関する知識と理論では誰にも負けないという自負があったものの、元来口下手で照れ屋であるため、それを伝える術、すなわち言葉を持っていなかった。そのため、ストレスで円形脱毛症になったこともあった。
「言葉を磨かなければならない」
そう悟った私は、哲学や政治経済、科学、文学などジャンルを問わず手当たり次第に本を読み始めた。なかでも中国の古典は参考になることが多く、心に響いた内容や言葉には赤線を引いたり、ノートに書き写したりした。そうやって少しづつ言葉を身につけていったのである。
私の言葉になんらかの説得力や含蓄を感じ取っていただけるとすれば、それは自ら努力して獲得していったものなのだ。
野村監督の本は何冊か持っていて読んでいるが、野球のことを全く知らない私でも、野球のことを分かったような気にさせてくれる。
野村監督は思想以外の分野、野球で活躍した人である。野球での長年の経験というごく少数の人しか持たない貴重な経験を持っている。彼は中国思想を読んだ。そして中国思想と野球の経験が相乗効果を生んだ。
私が狙っているのはこの相乗効果である。足し算と言うより掛け算。
『新約聖書』の「マタイによる福音書」13章に次のイエスの言葉がある。
種を蒔く人が種蒔きに出ていった。蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。ほかの種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐに芽を出した。しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。ほかの種は茨の上に落ち、茨が伸びてそれを塞いでしまった。ほかの種は良い土地に落ち、実を結んで、ある者は百倍、ある者は六十倍、ある者は三十倍になった。耳のある者は聞きなさい。
イエスの言葉を私の計画に応用してみる。同じことを述べているのではないのは百も承知なのでご勘弁いただきたい。
中国思想を現代日本に広めるのは、種を土地に蒔くことである。
思想に向いていない人は種を蒔いても「種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐに芽を出した。しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。」という結果になるかもしれない。
思想を専門にしている人は、「種は茨の上に落ち、茨が伸びてそれを塞いでしまった。」という結果になるかもしれない。
しかし思想を理解でき、思想を読んだことない人は、「種は良い土地に落ち、実を結んで、ある者は百倍、ある者は六十倍、ある者は三十倍になった。」という結果になる可能性がある。他の分野での経験と、思想が相乗効果を生み、百倍、六十倍、三十倍、という掛け算になるのだ。
これが実現すれば大きな効果を得られるだろう。
野村監督の『野村の結論』に次の言葉がある。
わたしは、野球は化学だと考えている。
野球には9つのの守備位置と9つの打線があるが、それぞれに意味がある。物質同士が結びついて化学反応を起こすように、9つの守備位置と打順が有機的に結びついたチームほど強いものだ。<<中略>>
化学反応を起こすうえでの監督の役割は、なにとなにをどのくらいの分量でまぜ、化学反応をより効率的に行う触媒をどのくらい投入するかを決めることである。
もちろん起こしたい化学反応によっても、物質は異なってくる。激しい反応を誘発する物質ばかり混ぜ合わせても、大きな反応が起きるとは限らない。場合によってはなんの反応も起きず、触媒の働きも期待できないまま失敗に終わるということもある。やみくもに物質を入れただけではダメなのだ。
夏の夜を彩る花火師たちは、できの悪い花火を見ると、「あれは単なる炎色反応」とバカにするという。プロ野球も同じで、小さな化学反応ではダメなのである。大きな反応を起こすには、物質である選手個々の能力や性格を把握し、最大限の反応が起きるように組み合わせを考えることが必要なのだ。
選手を物質に喩えてあるのはよろしくないが、野球において化学反応が大事だというのは分かる気がする。現代日本で、生きた思想が相乗効果を生み、百倍、六十倍、三十倍、という掛け算になるというのも化学反応のようなものである。
野村監督が「選手個々の能力や性格を把握し、最大限の反応が起きるように組み合わせを考えることが必要」だというように、現代日本で化学反応を起こすには現代日本のことをもっと知る必要がある。わたしは現代日本のことを知っているつもりだったが、勉強すればするほど、理解が足りなかったということを痛感する。
現代日本で化学反応を起こすということが可能かどうかは分からない。しかしそれを試みるのであれば、現代日本のことやさらに言えば日本の歴史をもっと知る必要がると思う。
■作成日:2024年12月6日。
続きは中国思想を読む順番をご覧ください。
■上部の画像は葛飾北斎
「女三ノ宮」。
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