二面性の具体例2

海外旅行はかなり以前からの趣味。国内旅行は京都奈良北海道沖縄あと本当の歴史がある何カ所か以外はどこ行っても同じだと昔は思っていた。 数年前その考えが完全に覆った。『○○県の歴史散歩』というシリーズがある。これに出会ってからだ。たくさん買い込んでいる。各県の歴史名所をかなり詳細に解説をつけて紹介した本。 それを持って各県を巡る。熟読する。普通の観光より20倍見たいところが増える。感動は大げさではなく数十倍になる。

それ以来国内旅行が楽しくて仕方ない。別の県に入ると大げさに言うと別の国にきた印象すら受ける。 日本は表面を見るとどこも似ているが掘り下げると地域の個性が現れてくる。個性は食べものだけではない。 日本史に興味がないと難しいけれど。 私は日本史に詳しくはないがもちろん基本は知っており非常に興味がある。

歴史散歩で重要なのは土地勘。地名を歴史の本で読んだときとかに「ああ、あそこか」と分かることが重要。 例えば朝鮮で起きた三一運動について読むとき「タプコル公園で起きた」と書いてあると、「ああ、あそこか」とピンと来る。

何度もソウルの街を歩き回って若干土地勘があるから。土地勘があると歴史をより臨場感をもって実感できる。 歴史散歩で国内各県を巡るとき、基本的にはレンタカーで移動する。 カーナビを利用する。非常に便利だ。

しかしひとつ問題がある。 カーナビを利用すると土地勘が育たないのだ。 自分で地図を読んであっちかなこっちかなと考えると自然とその土地勘が育ってくる。 カーナビがあるとそれができない。

カーナビが代わりに地図を読んでくれる。→自分で読む必要がない。→時間の節約になる。→便利。
カーナビが代わりに地図を読んでくれる。→自分で読む必要がない。→土地勘が育たない。→歴史を深く実感できない。

自分で地図を読む必要がないのがプラスにもなりマイナスにもなっているのが分かる。

私は別に新しい技術が出た時に欠点があるから全否定するような守旧派というわけではない。 そうではなくプラスとマイナスを両方把握したうえでどちらかを選ぶ必要がある。 時間が足りなくて効率よく旅をしたい場合はカーナビを使い、 土地勘を育てたい場合はあえてカーナビを使わないという選択をする。

『荀子』栄辱篇に次の言葉がある。

好ましいものを見れば、必ず反対の憎むべきものを見て、 利益になるものをみれば、必ず害になるものを見る。 プラスとマイナスをよく考えて比較検討しその後どちらを取るかを決める。 このようであれば常に失敗しない。 人の悪いところは片方に偏って害を受けることである。 好ましいものを見れば、その憎むべきものを考慮せず、 利益になるものを見れば、その害を考えない。 そのため動けば必ず失敗し、為せば必ず恥を被る。 これが偏り害を受ける患いである。

荀子の言葉は一見当たり前を述べているようだが、 なかなか本質をついている。

物事の二面性は日常に転がっている。このような二面性を考察するのは良いことか? 本人にとってその考察が役立っている感覚があれば良いことだろう。 私自身にとっては役立っている感覚がある。良いのだろう。

お釈迦様は言った。苦行があなたにとって役立つと感じるなら苦行をしなさい。 役立たないと感じるならやめておきなさい。 それに近いか。

私のような暇人は暇つぶしに二面性についていろいろ考察するが、もっと社会で重要な仕事をしている人たちは、 そんな面倒くさいことをごちゃごちゃ考えずに目の前の仕事に全力投球したほうがいい場合だってあるだろう。 二面性について考えること自体も長所と短所の二面性を持つ。

精神科医のユングが言った。 「私は今まで精神医学についてたくさん学んできた。しかし患者と接する時はその知識はいったん忘れて 一対一で患者と向き合うようにした。」 彼は理論の重要性と理論にとらわれてしまうという理論の欠点をよく認識している。

理論は物事を一般的に抽象的に捉える。一般的に捉えることでよく分かる場合はある。理論の大切さだ。 しかし現実世界は一般的な物事は存在せず個別の物事、具体的な物事で成り立っている。 理論にとらわれると現実を無視してしまう。

野村監督が言った。 「野球は頭でするものだ。しかしバッターボックスに入った時はそんなことは考えず、目の前の一球に全力集中しろ。」

二面性を考えることのマイナスの側面がもう一つある。 例えば多くの人が二面性を捉えることの重要さを指摘するようになると、 頭のいい人は「なるほど」と納得するかもしれないが、 理解力が少ない人は恐らく逆に混乱するだろう。

勘違いしておかしな思想を持つようになる。 そういう人にとっては「Aは善、Bは悪」とはっきりしていた方がいいのかもしれない。 二面性を考えるのは物事が本当は単純ではないということを明らかにするのが長所だが、 その長所が物事を複雑化するという短所を生む。

続きは明治維新と李氏朝鮮をご覧ください。


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■上部の画像は熊谷守一「泉」

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