現代日本の思想的矛盾

日本は非西洋の国で最初に近代化した国である。本来日本の伝統思想や文化と西洋の思想文化は整合しない。水と油である。だから160年にわたる西洋文化の導入でいろんな矛盾が蓄積している。恐らく東洋文化と西洋文化の交錯による矛盾は世界でも日本が最も蓄積していると思われる。その矛盾に気付いていない人も多いが、そういう人も気づいていないだけで当然矛盾を抱えている。東洋と西洋が融合しないことについての危機感が顕在的にも潜在的にも最も強い国のひとつである。日本がこの問題を正しく解決できるかどうかは重要な気がしている。

これは他の国の成功例を模倣して解決することはおそらくできない。恐らく解決事例は、小規模な形ではいくつもありうる。日本でも武満徹の作曲や山本寛斎のデザイン、岡本太郎の絵画、黒澤明の映画などがある。他国でもいくつもあるだろう。

しかしそれらはあくまで部分的解決である。海外の文化を自国の文化として取り入れるのは何百年もかかる。

歴史から解決策を持ってくることもできない。歴史を学ぶのは重要である。それが解決のための基本ですらある。しかし歴史を見渡しても恐らく参考になる解決策はない。他国の文化が急激に侵入してくるというのは世界の歴史ではよく生じる。もっと私が深く歴史を学べれば解決策は見つけられるかもしれないが、おそらくほとんどの場合、急激に他国の文化が侵入してもそれから何百年もかけて自然に解決したという例ばかりだろう。

例えば日本に儒教や仏教が入ってきて定着していった過程を分析し、その過程を速回しで行えばいいという意見もあるかもしれないがそれは不可能である。空海や親鸞たちが長い時間をかけて吸収した過程を短期間で実行するなどできない。

むしろ長い時間をかけて自然に解決するほうが良いのだという意見もあるだろう。強引に急に変えようとするとかえって事態が複雑化して、正しい解決が一層難しくなったりする。複雑骨折になる。短い期間でかつ自然に変えるというのは非常に難しい。

ただ現代日本が空海の時代と違うのは、空海の時代はもともと日本には神道しかなかったが、現代ではそれこそ空海たちのおかげで、中国思想とインド思想の長年の蓄積が日本にある点である。それをうまく活用できるかがカギである。

この思想の問題を正しく解決すると、はじめて日本に本当に生きた理念というものが生まれる。理念は我々国民の中に生きていないといけない。国の歴史に根ざしていないといけない。鈴木大拙の言葉で言うと日本という大地に根ざしていないといけない。日本人の深い切実な悩みに根ざしていないといけない。

就職活動の志望動機もその人の人生に根ざした動機がありそれが会社の仕事と結びついているのが理想的なように、国の理念も国民の広く深い切実な悩みに根ざし、そして普遍的な理念と結びついているのが理想的である。

日本の現行の憲法は日本人がつくった憲法ではない。自主的憲法が必要だという指摘には強く同意する。しかし、日本の国会を通しさえすれば自主的憲法になるというわけではない。思想的矛盾が解決され、国の歴史に根ざした理念が生まれてはじめてその後に本当の意味で自主的な憲法ができる。

もちろん9条はできるだけ早く改正すべきで、応急処置として自衛隊の明記はすぐにでも必要である。しかし本格的な自主的憲法は、その前に思想の解決が必要だと思われる。

思想の解決は目途はたっていない。しかし日本の停滞と日本に自主的憲法がないという現象的には全く別のふたつの問題は、深いところでは本質では関係があるのがお分かりいただけるだろう。どちらも結局、日本が抱える思想的矛盾が解決できていないという根本的問題の表面的な表れなのである。

続きは理想と現実のバランスをご覧ください。

■作成日:2024年11月30日


■上部の画像は葛飾北斎

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